アント上場延期に見た中国政府の強烈な危機感 ジャック・マーの見ていた夢とは違っていた

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「放任」というのは、国が大きすぎて統一した手立てがなかったからだ。しかし、市場競争で勝ち進んできた企業には、地方政府は安い土地の払い下げ、幹部の所得税の部分免税など、多様な手段で優遇した。これらの企業は将来、仕事、人材、技術、税収を地方にもたらす大切な「成長株」で、間違ってもほかの都市に移らぬようにするためだ。筆者の知る限り、北京、上海、深圳など大都市も、度合いの差はあるものの何らかの「優遇策」をとっていた。

このたび上場延期になったアントは、地方政府のみならず、中央政府の恩恵を受けた口だ。アントの金融事業拡大の過程において既存の銀行や資産運用会社との競合が抜き差しならぬ状況になったとき、政府は調整を進め、最終的には「ネット金融」のライセンスを与えるなどして、アントを助けている。そこには国家指導層の「デジタル経済」の将来へ期待があったのは間違いない。金融ライセンスはアント・グループ成長のドライバーになり、そこから世界最大といわれるフィンテック会社が誕生することになる。

政府が「監督」に重みを持つように

しかし、企業が大きく力を持つようになると、政府は当然のように「監督」に重みを持つようになる。それが「国家」や「社会」を根底から振り動かす「第3の勢力」になる可能性があればなおさらだ。「アント上場延期事件」はその可能性に対し国の明確な態度であったと思う。

2019年から人民銀行はアリペイやウィーチャットペイなどに対し、チャージ資金の100%を中央銀行の当座預金口座に預金することを義務づけた。スマホ決済が巨大になるにつれ、それ自身が人民元の金融システム構造をいびつにし、中央銀行の通貨総量オペレーションなどの金融政策の実行を困難にしたためだ。これは政府にとっては金融安定化策だが、アントにすれば低コストの資金運用機会の喪失につながる。

最近、さらなる資本規制や金利上限規制を導入するとの「噂」が流れていた。それがジャック・マーの「政府批判」につながった可能性は高い。「ビッグデータ・アルゴリズムを活用したデジタル金融は担保をベースにした既存の銀行業務とはまったく違う」とジャック・マーは論壇で反論した。

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