パナソニック持株会社化に透ける強烈な危機感 新社長の楠見氏は冷徹と優しさを両立できるか

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さて、愛嬌のほうはどうか。トップ就任を前にして「冷徹」という言葉を使い改革の推進を訴えた楠見氏は、どのように「愛嬌」を発揮していくのだろうか。

「愛嬌」を尊重していた松下幸之助氏は、事業に対してはある意味冷徹であった。叱りの天才と言われ、あまりの厳しい叱責に気絶した事業部長もいたという都市伝説ならぬ、「パナソニック伝説」があるほどだ。

幸之助氏と接した最後の世代である中村氏は「冷徹」に見えた。ニコニコしているときのほうが少なかった。筆者がインタビューしたとき、著名写真家の立木義浩氏に撮影してもらった。この人の表情を誘導する名人にして「なかなかいい笑顔が出てこないな」と手を焼いていたほどだ。

中村元社長は「中村改革」と呼ばれる改革を断行し、「破壊と創造」を掲げ約1万人の人員削減を実施した。しかし、会長時代(大坪社長時代)にプラズマディスプレイからの撤退を余儀なくされ、約6000億円に上る赤字を計上した。

顔をほころばせている場合ではないのかもしれないが

この状況下で社長デビューした津賀氏は、「普通の会社ではなくなった」と宣言し、改革を断行した。その頃、当然のことながら「愛嬌」があるようには見えなかった。ときどき冗談を言うキャラクターも持ちながら、笑顔を振り巻いている余裕などなかったのだろう。

同様に、楠見氏も柱となる事業が育っていないのだから、顔をほころばせている場合ではない。おのずと厳しい表情にならざるをえないのだろう。後継社長就任発表の記者会見でも、ほとんどほほ笑むことはなかった。

筆者は1980年代前半にニューヨークに駐在していたが、その頃出会ったパナソニック現地法人の社員(日本人駐在員)たちは、上から下まで仕事に対しては非常に厳しい姿勢で臨みながらも、明朗闊達で社交的、話が上手で面白い人が多かった。ステレオタイプにイメージする元気な大阪商人を体現しているようだった。筆者がまだ若かった頃の印象なので、やや主観が入っているが、コミュニケーションを深めるうえで「愛嬌」が奏功した実例として捉えている。

ところが近年出会うパナソニックの社員は、非常に頭がいい高学歴の人が増えたが、どうも暗く冷たい感じがしてならない。論理的に仕事の話をするが、人として面白みがなくなってきているような気がする。笑ったとしても「破顔一笑」といった感じである。

楠見氏は直近の3年間、トヨタ自動車との仕事を通じて、徹底的に無駄を排除し、正味付加価値に徹底的にこだわる現場の優れた改善力を目の当たりにする。「これがトヨタ生産システムだ」と。それに比べ、「残念ながら、現場の改善力とスピードは、パナソニックでは進化していない」と痛感した。

津賀社長は、パナソニックでは長年にわたり、持続的成長につながる事業の「仕込み」がなされていなかったことを悔やんでいる。諸先輩が仕込んでくれた半導体(イメージセンサー)、ゲーム、金融・保険などで好業績を実現しているソニーと平井一夫前CEOがうらやましく見えたのではないだろうか。そこで、計画的戦略は頓挫したものの、創発的戦略を実行しつつ自ら仕込みに励んだ。

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