パナソニック持株会社化に透ける強烈な危機感 新社長の楠見氏は冷徹と優しさを両立できるか

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楠見氏も社長に就任してからも引き続き仕込みに注力しなくてはならない段階にいるが、「パナソニックと言えばこれだ」という稼ぎ頭をいよいよ創出する世代となった。それが、楠見氏に課されたミッションである。そこで「賢い楠見氏」が気をつけなくてはならないのが、持ち株会社が持つ本来の性質である。

「監督と執行の分離」における「監督」の概念は、心理・経営学者のダグラス・マクグレガーの「人は生まれながらにして労働が嫌いなのではなく、条件次第で仕事を受け入れ、自ら進んで責任を取ろうとする」Y理論よりも、「人間は生来怠け者で、強制されたり命令されたりしなければ仕事をしない」というX理論に基づいている。マクグレガーは、アメリカでもY理論に基づく経営を行っているリーダーのほうがいい結果を出していることを実証した。

この理論は1960年代のアメリカを対象にしているのだが、持ち株会社化した現在の日本企業でも再考したほうがよさそうだ。持ち株会社のトップとなる楠見氏が、「薄皮」組織下の事業会社に足を運び、どのような「愛嬌」を駆使して事業を「専鋭化」していくのか注視したい。

次に「冷徹かつ迅速な意思決定」という楠見氏のキーワードと次の発言の整合性をどう解釈すべきか。

求められる「プラスα」

「競争力がない事業を成長させようとしても、無理が生じて利益が出ない。1つか2つ、他社が追いつけない部分を持てば成長の核になる。それが見えない事業をどうするか考える必要がある。各事業がどうすれば他社に負けないものを持てるのかを見極めていきたい」

表面的に聞くと、事業の撤退、売却とそれに伴うリストラ(人員削減)を、人事では、信賞必罰に基づく「必罰」を大胆に行うのではないかと想像してしまう。

パナソニックだけでなく、その顔であるトップの「ブランド(レピュテーション)・マネジメント」を長期的視点で見た場合、「プラスα」が求められるのではないか。

松下幸之助氏は「体力も学歴もない」自分を弱い存在であると自覚していた。周囲から偉人扱いされても、うぬぼれることはなかった。むしろ、体力に恵まれ、高学歴の「強く賢い人」に任せ、その能力を最大限に発揮してもらおうとした。この思いを具現化した組織が事業部制だった。

この原理を楠見氏は理解し、実行しようとしている。

「私1人で何かできるわけではありません。大きな会社だが、社員に忖度(そんたく)なくいろいろなことを言ってもらえるような風土をつくりたいです」(楠見氏)

楠見氏をはじめとするパナソニックの方々にとっては、釈迦に説法となるかもしれないが、最後に松下幸之助氏の言葉を捧げたい。

「賢い、強いということも、もちろん大切ですが、それ以上に大事なことは、心のやさしさなのです。これはすべてのものをとかすというほどの力があるのではないでしょうか。その力を失ってはならないと思うのです」(『松下幸之助一日一話』、PHP研究所編)

はたして、楠見氏は冷徹と優しさを両立できるのだろうか。

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