パナソニック持株会社化に透ける強烈な危機感 新社長の楠見氏は冷徹と優しさを両立できるか

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筆者は津賀社長にインタビューした際、「パナソニックの経営は人智を超えている」と指摘したことがある。もはや、これほど超多角化した会社(かつては、約180もの事業があった)を1人の社長が経営するには無理があるという意味で言ったのだ。

津賀社長はPDPにはじまり、半導体、液晶パネルと相次いで事業を処理、売却してきた。持ち株会社になれば、M&A(合併・買収)は行いやすくなると一般的には言われている。楠見氏もそれをにおわせるキーワードを発した。「冷徹かつ迅速な判断」である。

津賀社長の各事業の責任を明確化し競争力の高い事業を伸ばしていく「専鋭化」というキーワードを受けて、楠見氏は「生意気な言い方になるが、我が意を得たり」と感想を述べた。逆に成長が見込めない事業について、「冷徹かつ迅速な判断でポートフォリオから外していく」と宣言した。

楠見氏は「部下からの人望は厚い」という声が社内から聞こえてくるものの、「頭は切れるが、遠慮がない」とも評されている。CEOになり、この性格に磨きがかかるのだろうか。ここで頭に思い浮かんだのが、松下幸之助氏が重視した「運」と「愛嬌」である。

松下幸之助氏は、『成功の条件とは「運」と「愛嬌」、そして、そのうえでの賢さ、勤勉さなどの能力』といい、「自分は運が強い」と言っていた。「運」がなさそうに見える人には誰もついてこない。つまり、ビジネスでは実績を積んだリーダーに人はついてくるという含蓄である。

社長が偉そうに不愛想に振る舞うほど蟻地獄

「愛嬌」については、幸之助氏の元秘書・江口克彦氏が「社員と顔を合わせても、ニコリともせず、無視するような顔をする。要は、俺は偉いんだ、社長なんだという雰囲気を出すから、経営がうまくいかないのです。社長が自ら、偉そうに振る舞えば振る舞うほど、不愛想にすればするほど、蟻地獄。ますます経営は難しくなるのです」と解説している。(「リーダーに必要な究極の能力は『愛嬌』だ」2017年5月4日配信)

楠見氏は入社以来、幹部候補生として幅広い経験を積みながら、着々と全社(企業)戦略を構築、実践するうえでよき経験を積み、多角化企業を俯瞰できる経営感覚を習得している。天才的技術者の資質と優れた実務能力を実践できるコースを歩めたということ、そして何よりも入社早々、将来社長になり自分を後継者に任命してくれる津賀氏に出会ったことは「運」がよかったと言えよう。「次期社長の本命」とされ部下たちも楠見氏に運のよさを感じ、モチベーションが高まっていたのではないだろうか。

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