ブレア元英首相に学ぶ、超一流の「聴き方」 田坂広志 多摩大学大学院教授に聞く(2)
――なぜ、トニー・ブレアは、そうしたスピーチができるのでしょうか? やはり、彼の「語り方」や「言葉の選び方」が、並外れて優れているからでしょうか?
たしかに、彼の「語り方」や「言葉の選び方」は見事ですが、実は、彼の話術の秘密は、それだけではないのです。
おそらく、彼の「語り方」を学んだだけでは、あの「話術」の秘密は、決して理解できないでしょう。
実は、トニー・ブレアから学ぶべきは、「語り方」だけではなく、その逆の能力なのです。
すなわち、「聴き方」。
それをこそ、彼から、学ぶべきでしょう。
「聴衆に対して何を語るか」だけでなく、「聴衆から何を聴くか」。
その技術をこそ、トニー・ブレアから学ぶべきでしょう。
「無言の声」を聴く力

――「聴き方」ですか・・・? しかし、「聴衆から何を聴くか」と言われますが、聴衆は、黙って話者の話を聴いているので、何かの言葉やメッセージを発しているわけではないのでは・・・。
いえ、そうではありません。
実は、講演やパネル討論において、注意深く会場を見ていると、聴衆は、「無言の声」や「無言のメッセージ」を発しているのです。
だから、数多くの講演やパネル討論を経験し、話者として修業を重ねていくと、いつか、この「無言の声」や「無言のメッセージ」が聞こえてくるようになります。
そして、それが聞こえてくるようになったとき、我々は、話者として、本当のプロフェッショナルの世界に足を踏み入れるのですね。
逆に言えば、話者として「聴衆に対して何を語るか」を腐心している段階は、まだ、本当のプロフェッショナルではないのです。この「聴衆の無言の声にどう耳を傾けるか」を考え始めたとき、我々は、本当のプロフェッショナルの世界に足を踏み入れるのです。