DX時代に「手書き履歴書」求める採用担当者の罪 就活生のその労力を別なことに使ってほしい

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5 データだと本当にその人が書いた文章かどうかわからない

「データは簡単にコピペができるので、履歴書などを書くのが得意な人に簡単に代行してもらうことができるが、手書きではそういうことができない」という意見がありました。

ただし、このことと手書きかどうかはほぼ関係ないと思います。手書きだろうがデータだろうが、その文章を作成したのが、本人か本人以外なのか、事前に準備してもらう書類である以上、確認する方法はありません。

代行者が作成した文章を手書きで書けば、手間はかかってもコピペと一緒です。しかも、どのような内容を書いたらいいか見本文章のサンプルも多く出回っており、そのサンプル文章に、少し自分のエピソードを加えて変えるだけで、もっともらしい文章にすることもできます。本当にその人物が考えて書いた文章を見たいのであれば、その場で書かせる以外ありません。履歴書の文章内容で本人を評価することの意味は、それほどないと私は考えています。

「紙の履歴書」も不要な時代へ

以上のように手書きにこだわる理由はいろいろあるものの、そこにこだわり続けるだけの必然性が見えないと考えています。学生には手書きの履歴書にかける時間や気持ちを、もっと有意義な就活のために使ってほしいと思っています。

新卒採用においては、セミナー・説明会や選考、面接がほぼWEBに切り替わっている中、何故まだ一部で手書きを求めているのか? 履歴書そのものが必要ないという意見もある中、手書きで書かせることは、必要以上に学生に負担を強いているとしか思えないのです。

また、さらに「紙の履歴書」そのものもなくしてしまえばいいと言う人が少なくありません。WEB面談が主流になり、パソコンの画面上ですべて完結できるようになっている中、紙にプリントアウトする必要性はないという意見があります。

私は直接対面の面接では、面接相手に見える形で履歴書の補足メモをとりたいという意図から、データの履歴書をプリントアウトして臨みたいと思っており、紙の履歴書をすべてなくすことは、正直、素直に受け入れられません。しかし、それ自体も今の時代には合わないこだわりかもしれません。

アナログが一方的に悪い訳ではないですが、世の中のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいく中で、アナログにこだわることについて、本当にそれは意味があることなのかを考える必要があります。ただ前例にしたがっているだけ、考えていないだけではないかということが多く見つかってくると思います。手書きの履歴書だけでなく、政府が声高に訴えている印鑑廃止もその1つなのだと思います。

印鑑といえば、手書きの履歴書を書き終わった後、印鑑を押したら、印影が欠けてしまったため、新たにすべてを書き直したというエピソードを聞きました。なんという無駄でしょう。こういうことがあるため、履歴書を書く前には、先に印鑑から押そうというアドバイスする就活支援本もあると聞いて、驚きました。こんなことで、学生の貴重な時間を奪い、学生を苦しませていいのでしょうか。

世の中の猛烈な進化スピードについていき、次々と新しいことに挑戦し変化を遂げていかなければ生きていけないこの時代、会社や人事担当者は、学生がより重要なことに時間を使えるようにルールを整え、世の中の生産性を高めていくことに貢献していく必要があると思います。

豊川 晴登 人材ビジネス企業 人事・採用担当

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とよかわ はると / Haruto Toyokawa

1974年生まれ。ベンチャー、中小、大手上場企業など複数の企業に勤務し、小売、金融、保険、アウトソース、人材等の事業領域で人事を中心としたキャリアを積む。事業責任者、上場企業の執行役員等の経験を経て、現職に至る。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。

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