オンライン授業で大学教育の質はどう変わるか 労働経済学者の安藤至大・日本大学教授に聞く

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――ただ、デジタルはコピーが効くので、一度作ってしまえば効率的では?

ところが、突然こうした体制へ移行したため、現状はそうなっていない。

たとえば日大経済学部には、1学年約1600人の学生が在籍するが、私も担当する「ミクロ経済学Ⅰ」の講義は1年生時に全員が受講する必要がある。そのため、これまで共通の教科書を用いて、10人以上の教員が分担して講義を行ってきた。そしてそのままオンライン授業へシフトしたため、現在は10人以上の教員がそれぞれ自分のパワポ教材や講義用ビデオを作っている状況だ。

教員によってオンライン授業の質はまちまち

――えっ? 本当ですか。それはものすごく無駄な気がします。

安藤至大(あんどう・むねとも)/日本大学経済学部教授。1976年生まれ。2004年東京大学博士(経済学)。2018年から現職。専門は契約理論、労働経済学、法と経済学。著書に「これだけは知っておきたい働き方の教科書」「ミクロ経済学の第一歩」など(撮影:今井康一)

オンライン授業が始まったとき、私も「講義用ビデオ作りのうまい人にまとめて作ってもらえばいい」と思った。実際には、そうした取り組みはこれから進められていくことになるだろう。

同じ教科書を使った授業でも、どの教員への学生の評価が高かったのか、どんなオンライン教材を使っているのかを大学側は把握できるようになる。従来、ほかの教員がどのような教え方をしているのかは学生から伝わってくる評判を通じてしか教員は把握できなかったが、その実態が白日の下にさらされることになる。

これは日大のケースではないが、SNS上でも学生の側から不満の声が出ている。特に、教員がオンライン講義に十分に対応できず、「教科書の何ページを読んで、課題をやっておいてと言うだけ」「課題を提出してもフィードバックが何もない」といった声が聞かれた。

――突然の開始から半年ほど経ち、オンライン授業での質の改善が必要ですね。

大学からの要望もあり、後期の授業では段々と全体の水準も上がっているようだ。もちろん教員の努力や慣れもある。ただ、大学の教員には非常勤の方もたくさんいる。多くの担当者は「引き受けたからには学生のために努力しよう」と考えて講義資料作りに注力するだろうが、たとえば弁護士を本業とする人が週1コマだけ大学で教えているといった場合は、面倒くさいのでもう引き受けないという話になりかねない。

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