オンライン授業で大学教育の質はどう変わるか 労働経済学者の安藤至大・日本大学教授に聞く

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――専門の労働経済学の分野では、「スーパースターの経済学」という論文が有名と聞きました。将来は大学教員の世界でもそれが現実化するのでしょうか。

アメリカのシカゴ大学のシャーウィン・ローゼン教授(1938~2001年)が書いた有名な論文だ。昔、それぞれの町にはローカルな音楽家やダンサー、コメディアンなどがいて、市民に生の娯楽を提供していた。しかしレコードやCDが実用化されると、人々は世界で一番うまい人のものを聴けばいいということになり、それぞれの町には上手な人はいらなくなる。結果、「独り勝ち」が起きて、トップクラスの人に所得が集中するというロジックだ。

全員がスーパースター教授の学生になれる

大学教育の世界も同じで、これまでの対面授業では二流や三流の教員でも意味があったが、オンライン授業が当たり前になれば、1人のスーパースター教授が1万人を相手にして講義できてしまう。そうした時代が到来したときに、私にはいったい何ができるかとずっと自問してきた。

――AI(人工知能)などによって将来、仕事を失う人が出てくると経済学者は説いているけれども、実は自分たちもその対象なのだと。

たとえば、自動運転が実用化されるそのときまで、タクシー運転手は社会に必要だ。だが自動運転が実用化してから短期間でタクシー運転手の仕事が失われる可能性がある。日進月歩の進歩を見せる自動翻訳でもある日突然、通訳の仕事を奪ったりするだろう。

このようなことを人ごとのように話していると、学生からは「えらそうだ」と思われる。「いやいや、実は私のやっている大学教員の仕事も先はわかりません。私も常に将来の働き方を考えています」と説明して、やっとこちらの話を真剣に聞いてもらえるようになる。

ネットの高速回線と自動翻訳、そして3Dホログラムが実用化されれば、世界のスーパースターの経済学者が日本語でいくらでも目前で授業をしてくれる。コロナ禍により、そうした世界が予想より5年くらい早く近づいてしまった感じがする。

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