オンライン授業で大学教育の質はどう変わるか 労働経済学者の安藤至大・日本大学教授に聞く
――将来、教えることのうまい先生へオンライン授業を集約していくのはいいことですが、一方で教員の雇用問題が生じることになりませんか?
大学教員は学生数に応じて何人必要といった基準が決まっており、教員の数がすぐに減らされるといった話にはならない。オンデマンド型の講義は一部の教員が担当したり定評があるものをうまく使ったりする、ほかの教員は演習の授業を担当するといった役割分担の話になるだろう。大人数授業が減って、少人数クラスが増えるなどの変化もあると思う。
授業は「反転学習」へ移行し、濃密になる
10年以上前から「反転授業」という言葉がある。学生はまずはビデオ教材などで自習し、そのうえで教室の授業で課題を解き、演習を行うものだ。そのほうが、より効果的で濃密な授業になると考えられている。今後進むべきは、そちらの方向だ。
2010年に日本でもテレビ放映されて有名になったアメリカのハーバード大学のマイケル・サンデル教授の授業を覚えているだろうか。あれにはあるトリックがあったのだが……。
――それは何ですか。
サンデル教授が大講堂で政治哲学の講義を行い、手を上げた学生を指すと、みんなスラスラと自分の意見を話していた。「さすがハーバード大学の学生だ」と感心する人が多かったが、実はあれは、少人数に分けた学生のクラスに大学院生が張り付き、事前勉強を行っていた。そのうえで、サンデル教授と濃いディスカッションを行ったわけで、当然ながら予習しなければ議論は成立しない。
同様に、これからの大学の授業は同じ教員数の下でも、効果的にオンラインの予習授業が取り入れられ、議論や演習にももっと時間を割けるような濃密なものへ変わっていくだろう。
大学設置基準の考えでは本来、1単位につき45時間の学修が求められることになっている。これは15時間分の授業に対し、その2倍の自宅学習があるという前提で単位取得が可能となっている。そのため、学生が履修可能なコマ数をすべて受講したら、本当ならアルバイトやサークル活動はできないほど忙しいはずだった。オンデマンド型の学習を取り入れることで、本来目指していた大学教育の姿に近づいていくのかもしれない。
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