オンライン授業で大学教育の質はどう変わるか 労働経済学者の安藤至大・日本大学教授に聞く

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――スーパースター以外の教員にはどんな役割が残りますか。

先ほども言ったように、大学教員は全滅するわけではないだろう。実は、スマートでうまい授業ほど、後で頭に残らない、内容がわからないということが起きやすいと指摘されている。あまりに刀が鋭いと、斬られたほうが気づかないようなものだ。

実際、経済学などでは応用問題を山ほど解かないと理解が深まらなかったり、理系では実験が不可欠だったりする。これまでは時間的制約によって十分にできなかったことが、座学をビデオに代替することで、より充実して行えるようになる。スーパースターの経済学が現実化しても、ほかの教員の役割も依然として必要となると思う。

学生への支援をどう恒久化させるか

――大学教育の質が高まるのは大歓迎です。今後の課題は何になりますか。

まず学生の側の視点で考えると、現在時限措置となっているサポート体制をどう恒久化するかということがある。すべての学生がハイスペックなパソコンや高速常時接続のネット環境を持っているわけではない。学生の約半分は、日本学生支援機構のローンを借りている状況だ。

今回の緊急事態の中では、大学側がハードウェアを貸与したり、携帯電話キャリアが低価格プランでもオンライン授業にとって十分な月50~60ギガバイトの通信容量へ制限を緩和したりするなどの支援が行われていた。いつまでも続けるわけにはいかない中で、どのような支援を効果的に実施するのかが課題になっている。

2つ目はITなどでの教員側へのサポートだ。動画作成だけでなく、小教室で普段どおりの授業を行って、それをカメラで撮って動画編集を行ったりするケースは増える。ITが苦手な教員は少なくない中で、ツールの標準化などを含めて、大学側のサポートは不可欠だ。

3つ目は、文部科学省の基準についてだ。現在、オンライン授業の上限は年間60単位と決まっている。それ以上は対面でないと認められない。現在は新型コロナウイルス対応の特例で緩和されているが、大学教育が変化していく中で、それを見直す必要がある。

――春からのオンライン授業へのシフトでは、学生側の満足度はどうでしょうか。

学生にアンケートを取ると、オンデマンド型のビデオ授業は2年生以上で非常に評価が高い。一方、大学キャンパスに行けず、友達作りもこれからである1年生にはストレスになっているようだ。大人数の授業をライブ配信で行うことはオンデマンド型と比較すると人気がないようだ。

重要な課題として、あまりにいろいろなことが一度に起きたため、肝心の学生を含めて、今の大学の状況がどうなっているのかが十分に認識されていないということがある。

教員側からすると、90分の授業は従来の対面のほうが圧倒的に楽だが、学生にはそれが伝わっていない。「オンラインで大学は楽をしている」と映っているようだ。そのため、納得感が低く、学費値下げ運動も起きている。

大学側からすれば、キャンパスや図書館は維持する必要があり、学生への支援でお金もどんどん使っている状況だ。負担が増えた教員に対して正当な賃金を支払う必要もある。本音ではむしろ学費は上げたいくらいかもしれない。学生の満足度をいかに維持・向上するかという最も重要な課題の解決に向けて、今大学で起きていることを正確に伝えていく必要がある。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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