イギリスが、このような方針転換をはかったのは、モデルとなるべき国があったからだ。それは東アジア、とくに中国である。中国は大量検査体制を確立し、コロナ感染の抑制に成功している(表参照)。最近、中国のやりかたを象徴するケースが報じられた。青島での集団感染への対応だ。
10月12日、青島市の医療機関で12人の国内感染者が確認されると、中国政府は、即座に全市民を5日間で検査すると決定し、17日までに994万7304人の検査を終えた。15日現在、764万6353人の検査結果が判明しているが、陽性者はいない。この結果を知れば、中国国内でコロナが拡大していないことを納得できる。
もちろん、中国の統計データに問題がある可能性は否定できない。中国当局の発表には、つねに改竄・捏造の疑いが指摘されている。ただ、青島の大量PCR検査の結果については、CNNなど海外メディアは大きく報じており、世界では、それなりに評価されている。ちなみに、日本では朝日新聞や産経新聞が全市民に検査をすることを紹介しただけで、その結果を報じたところはない(10月27日現在)。
日本と中国のPCR検査体制には大差
筆者も青島には多少の感染者が存在した可能性は否定できないと考えているが、それにしても、日本と中国では検査体制に大きな差ができてしまったことは認めなければならないだろう。8月28日に政府が発表した「対策パッケージ」では、季節性インフルエンザとの同時流行に備え、検査能力を1日20万件に拡充することを目標とした。中国が青島市で示した処理力の10分の1だ。
コロナ流行以降、中国は検査能力の拡充に尽力してきた。例えば、多くの検体をまとめて検査する「プール方式」の導入や、「コロナ移動実験室」と呼ばれる移動検査車両の開発などだ。後者はスタッフ2人と運転手1人で、1日500~2000人の検査ができるという。
一方、日本は何もしなかった。いや、厚生労働省は民間や自治体の足を引っ張った。8月24日、世田谷区が、区内の高齢者施設などの職員約2万3000人を対象に「プール方式」を用いたPCR検査を実施しようとしたが、厚労省は「科学的知見が確立されていない」ため、行政検査とは見なせないと回答した。
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