10月26日、第203臨時国会が招集され、衆参両院本会議において菅義偉首相が所信表明演説を行った。この演説を聞いて、私は暗澹(あんたん)たる気持ちとなった。なぜなら、その中で、菅総理は「重症化リスクが高い高齢者や基礎疾患を有する方に徹底した検査を行うとともに、医療資源を重症者に重点化します」と発言したからだ。この発言は、「無症状者には検査しない」と宣言したことにほかならない。
新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染症の特徴は、感染者の多くが無症状で、彼らが周囲にうつすことだ。「重症化リスクが高い高齢者や基礎疾患を有する方に徹底した検査」をしても、感染拡大は防げない。コロナ対策の肝は重症者を救命することに加えて、無症状の感染者を見つけて、隔離あるいは行動を自粛してもらうことだ。日本政府は、後者を軽視してきた。これは世界の潮流とは正反対だ。
有症状者に検査を絞ったイギリスは反省
世界は無症状の感染者が周囲にうつさないため、検査対象の拡大に務めてきた。世界的な医学誌・科学誌には、この問題を議論した論文が数多く掲載されている。
例えば、イギリスの医学誌『ランセット』の10月24日号には、イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンのバーナード・フロイデンタール氏による「イギリスの有症状のスタッフに対するコロナ検査の誤用」という論文が掲載された。その中で、フロイデンタール氏は「無症候性の医療従事者をスクリーニングすることは合理的で、第1波で検査対象を有症状者に絞ったイギリスの政策は問題だった」と論じている。
イギリスの人口10万人あたりの死者数は62人(10月4日現在)で、欧州の主要国ではスペインの69人に次いで多い。2020年4~6月期のGDP対前期比はマイナス20.4%で欧州最低だ(表参照)。
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イギリスは検査体制の確立に手間取り、感染者・死者を増やすと同時に、国民を不安に陥れた。この結果、甚大な人的・経済的ダメージを蒙った。その反省の象徴が前出の論文だ。イギリスは、8月19日、全人口を対象に定期的にPCR検査を実施する方針を表明している。菅首相の所信表明演説とは対照的だ。
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