医学部人気「20年後も続く」保証ない深い事情 AI時代の到来で医師のステータスも変わるか

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私立医大も軒並み入試のレベルが上がっていて、昭和の時代には、学費が高額であることを措けば学力的には合格がそれほど大変ではなかった私立医大の多くが難関校になっているのが現実です。

親が医者で、将来家業を継ぐことを期待されているがゆえに、年間400~500万円もする医学部専門予備校の授業料を何年も払ってもらいながら、5浪、6浪の末にその狭き門をようやくパスするという人がたくさんいます。一般に、入試の偏差値の低い医学部の場合に多浪生の比率が高いことはよく知られています。

そのような背景もあり、日本の大学では合格するのが難しいと判断して、アジアや東欧の大学医学部に進学するケースもここ10年ばかり目立ってきています。カリキュラムがきちんとしていて日本の大学の医学教育と同等と認められるなどの条件があるのですが、基本的には正規に日本の医師国家試験を受けられるのです。

このことは、2020年7月にあった医師によるALS患者さんの自殺幇助事件で容疑者の一人が外国の医学部卒でこの試験に合格して医師になった人物であったという報道を機に、広く知られるようになりました。

そうなる前から、厚労省でも、外国の大学を卒業して日本の医師国家試験を受験する人が増えている現状を認識していて、今後の医師国家試験のあり方について検討を行っているようです。

20年後、医師のステータスはどうなっているか

彼らやその親たちがそこまでして医学部に入りたがるのも、医師という職業が将来の高収入や地位、名声、社会的評価を保証してくれるものだと思っているからでしょう。

たしかに勤務医でも年収2000万円を超えている人は普通にいますし、開業医ともなれば年収1億を超える人がいくらでもいるのが現在の医者の世界です。

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しかし、ここまで述べてきたように、AI時代が到来する20年後の医師に求められるスキルは今とはずいぶん違うものになるはずですし、それは5浪、6浪の末に医学部に入ったからといって必ず身につく類のものではないでしょう。

冷静に見ると、そもそも医師という職業自体、多浪と、それに伴う多額の出費に見合うほどステータスの高いものではなくなっているかもしれません。

現在でもほかの先進国、たとえば高齢者医療の予算を大幅に削減したイタリアなどでは、医師免許を持っているにもかかわらず国内では仕事にあぶれ、別の職業に転職したり、仕事を求めて外国に移住したりした医師が非常に多かったことが知られています。新型コロナ流行拡大に際して、イタリアの医療崩壊が特に深刻だったことにもこのことが影響しているという報道もありました。

AI時代の到来、またそれ以外の社会的な状況の変化からも、日本の医師が転職しないで済む保証はありません。

奥 真也 医療未来学者・医師

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おく しんや / Shinya Oku

1962年大阪府生まれ。医療未来学者、医師、医学博士。経営学修士(MBA)。大阪府立北野高校、東京大学医学部医学科卒。英レスター大学経営大学院修了。東京大学医学部附属病院放射線科に入局後、フランス国立医学研究所に留学、会津大学先端情報科学研究センター教授などを務める。その後、製薬会社、医療機器メーカーなどに勤務。著書に『未来の医療年表』(講談社現代新書)、『医療貧国ニッポン』 (PHP新書)、『人は死ねない 超長寿時代に向けた20の視点』(晶文社)、共著に『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)がある。

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