医学部人気「20年後も続く」保証ない深い事情 AI時代の到来で医師のステータスも変わるか

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安定していると言われる医師のステータスは今後どうなるのでしょうか(写真:siro46 /PIXTA)
AIの登場など技術の発達によって、医師の役割は今後どのように変化していくのでしょうか。医学博士の奥真也氏による『未来の医療年表 10年後の病気と健康のこと』から一部抜粋・再構成してお届けします。

人間の医師がこれまで行っていた仕事の大半は、今後AIにとって代わられる――。X線写真やCT、MRI、超音波画像などの画像診断にかんしてはもちろん、聴覚や触覚など、人間の五感を頼りにする診断でも、人間医師がAI医師の凌駕しつつある現実を前にして、私はそう確信しています。

そうすると、近未来の医師に要求される役割はおのずと変わってきます。すなわち、大きくは「医療を作り出す人」と「患者さんに寄り添う人」という2つの役割に分かれていくはずです。

AI時代の医師に課せられる役割

「医療を作り出す」とは、基本的には新しい治療法を考え出すことを意味します。同時に、新しい技術の登場を踏まえて、「医療」の範囲を従来考えられていた範囲から広げていく仕事もこれに当たります。

たとえば不妊治療という分野は、数十年前までこの世に存在しないものでした。子どもを授かることを望んでいるのになかなかそうならない人たちに医師ができることといえば、せいぜい女性の生理周期を元に「いつ行為をすれば妊娠しやすいか」、あるいは「妊娠しやすい食生活」を助言するくらいであり、それ以上の積極的な治療などしようがなかったからです。

しかし人工授精の技術が発達した現在では、女性の卵子を体外に取り出して、精子バンクから購入した、そのカップルないし個人の希望に応じた目の色や皮膚の色、職業、趣味などの特徴を有する男性の精子と人工体外授精させることも可能になっています。

このように、新しい技術が登場するごとに領域を広げていく医療のあり方をデザインし、倫理や社会規範、経済性などと秤にかけながら推進し、時には抑制することも、AI時代の医師に課せられる重要な役割になっていくでしょう。

もっともコンピューター学者によっては、こうした「医療を作り出す」役割さえも、AIは人間に代わって行うようになる、と主張している人もいますし、もしかしたらそういうAIの台頭は抗いようがない人類のたどる道なのかもしれません。

しかしこの「最後の牙城」までもAIに明け渡すべきなのかどうかは、それが本当に人間社会にとって幸せなのか、実際にAIに任せることが可能なのかを熟慮した上で、医師のコミュニティが判断すべきだと私は考えています。医師以外の専門職やAI医師との機能分担を総合的に考えて、人間の医師が何をしていくか、今後の重要なテーマです。

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