まず、キリスト教信者が「マスク反対」に傾倒するデータがある。本書によると、キリスト教信者のアメリカ人で天国を信じている人が85%、地獄を信じている人が70%もいる。さらに、神は「異言や病人の治療」「悪魔祓い」などを人々に施すと信じているアメリカ人が3分の1もいる。こうした異常な信者がアメリカ人の一部を占めているために、学校で神による「創造論」を教え、「進化論」を教えない州が少なくない。
こうした人たちにとっては、パンデミック(世界的感染)を解決するのは、科学ではなく「神」ということになる。
また、遺伝子組み換え食品(GMO)が科学的に安全と証明されているのに、安全と思わないアメリカ人が57%もいる。若者に人気のスーパーマーケットに行くと、「Non-GMO」のコーナーに人だかりがしている。また、インフルエンザなどのワクチンに対する抵抗も強い。「ワクチンが自閉症を引き起こす」として、学校で子どもにワクチン摂取を強制すべきではないという人は、全米におり、国民の3分の1を占めるという。
反GMO、反ワクチン派は、政治的イデオロギーが保守派と一致している訳ではなく、高学歴のリベラル派もかなり含まれる。『ファンタジーランド』の記述から、宗教の理由で、あるいは科学に対する不信の理由でマスクを否定しているアメリカ人が、3分の1ずつだと推測することができる。
アメリカ市民の半分は「反マスク派」
しかし、筆者の肌感覚では、アメリカ市民の半分ほどが「反マスク派」ではないかと思わせる。イリザリーさんは、マスクを否定する理由は、アメリカの歴史・文化に基づくものだけではないという。
「恐怖心というのは大きいと思う。とくに低学歴のアメリカ人は、恐怖に対して過剰に反応する傾向がある。アジアのSARSなどを経験したことがないアメリカ人は、マスク着用を体験したことがなかったのに、いきなり強制されて、恐怖と怒りを感じている」
その恐怖心を利用して、トランプ大統領は、マスクを拒否し、着用せず「新型コロナはすぐに消える」「新型コロナにとらわれるな」とメッセージを発信してきた。自らが戦い、抑圧しなければならない敵、新型コロナを利用して、「マスクをしなくていいんだ」と支持者を安心させて、再選につなげる戦略だ。
10月15日現在、トランプ氏は、アメリカ大統領選の民主党候補、バイデン前副大統領に支持率でリードを許している。しかし、新型コロナを巧みに選挙戦に使ったという意味で、トランプ氏のほうが一枚上だろう。
アメリカの新型コロナ感染者数は、10月20日現在累計で820万人、死亡者は22万人に上る。しかし、人口の多くがマスク着用を拒否している限り、いつになったら感染が抑制されるのか、まったく見通しが立たない状況だ。
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