ツイッターにはトランプ氏の集会を懸念する声が書き込まれている。
「3週間前にトランプが自分の村から8キロ離れたところで集会を開いた。その前は、感染者がゼロだったのに、今急増している。高齢者施設でもだ(職員が集会に行った)」
「週末に自分の街でトランプが集会を開く。感染者数は抑えられていたのに、急増するかもしれず心配だ」
マスク着用をめぐって殺人まで発生している。今年5月、中西部ミシガン州の安売りスーパーで、マスクをしていないお客に、着用を要請し議論となった警備員が、ハンドガンで頭を撃たれて死亡した。ミシガン州のグレッチェン・ウィトマー州知事(民主党)は4月、屋内の公共の場所でのマスク着用を命じたため、警備員はそれに応じた指導をしていた。この州知事令は、マスク反対の保守派市民の不信を買い、州政府ビルが封鎖されるまでに至った。
そのうえ、アメリカ連邦捜査局(FBI)は10月8日、ウィトマー知事の拉致・殺害計画を囮捜査で察知し、武装集団男性13人を逮捕したと発表した。集団は、投開票日前に約200人を集めて、州政府ビルか州知事自宅を襲い、同知事を人質にとる計画を立てていたという。同知事の命も危なかったわけである。
トランプ派がマスクをしたがらない理由
トランプ派はなぜ、マスクをしたがらないのか? なぜ新型コロナ予防に有効だということを理解しないのか?
マスク反対派が少なくない中西部に育ち、現在ニューヨークでオリジナルマスクを作り販売しているソーニャ・アン・イリザリーさんに話を聞いた。
「アメリカには、イギリス政府から独立戦争をして国家を形成したという歴史がある。私の経験から話すと、白人の中流・労働階級を中心に、自分たちは独立によって得た自由を享受する特権があると考えている。政府が自分たちにどうこう指示するな、という文化で、それがマスク着用拒否につながっている」
マスク反対派のYouTubeビデオなどを見ると、以下の主張が見られる。「マスク強制は人権侵害」「マスクをするかしないかは、選ぶ権利がある」――。これが発展して、ロックダウン下でも「レストラン・バーの営業を続ける権利」「新型コロナにかかるかかからないかは、個人が選べる」といったさまざまな権利の主張が聞かれた。
人権侵害につながるとして根強い「反政府」感情は、中央政府だけに向かうのではない。アメリカには連邦政府があるが、実際にマスクを強制・要請しているのは州政府や市で、命令を発した地方の政府に怒りが向かう。ミシガン州知事が、武装集団の襲撃計画の的になったのは、このためだ。
それでは、どんな人たちが、アメリカの特権を守ろうという文化を担っているのか。「白人、白人至上主義者、低学歴の市民、信心深いキリスト教信者たち、リバタリアンなど」とイリザリーさん。
つまり、マスク反対派、イコール、トランプ支持者と単純にはくくれない。『ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ500年史』(カート・アンダーセン著)を読むと、イリザリーさんが言った多様な人々が混じってきた歴史が、手に取るようにわかる。
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