日本初「野菜ジェラート店」に行列ができる理由 雪が積もる「鳴子」で冬でもしっかり売れる
大澤親子の料理の腕前は、大崎市で評判だった。毎年プロの料理人が腕を競う「おおさき料理対決」で、2009年から3年連続で最優秀の大崎市長賞を受賞しているのである。この快挙で、お店に来るお客さんも増えた。しかし、もどかしさも感じた。
「仙台の人からも、鳴子って遠いと言われることが多いんです。お店でどんなにおいしい料理を出していても、気軽に食べにこられない場所だと、そのおいしさも伝えられない。飲食店って限界があるなと思いました」
「伝えることの難しさ」は、別の仕事でも実感した。「おおさき料理対決」で最初に優勝した年から、「野菜ソムリエ・なるこりん」として活動していた大澤さんに、大崎市のお隣、登米市の道の駅を巡るという仕事がきた。そのとき、お客さんは野菜のおいしさを知る術がなく、見た目で選ぶしかないのはもったいないと感じた。
「もっと気軽に野菜のおいしさを知ってもらうにはどうしたらいいだろう?」
そう考えているうちに、ある日、アイデアが降ってきた。
「あ、そうだ! 野菜をジェラートにしたら面白いんじゃない!?」
当時、野菜のスムージーはあったが、ジェラートはなかった。いろいろな野菜を使ったジェラートがあったら、野菜に興味を持ってもらえるかもしれない。ジェラートは子どもからお年寄りまでみんなが好きだし、手軽に食べられるし、冷凍だから全国にも送れる!
水も牛乳も野菜も大崎産のジェラートを作りたい
「野菜ジェラートを作ってみよう!」と思い立ったものの、ジェラートがとくに好きだったわけでもなく、作り方も知らなかった。
さて、どうしようかと思っていたときに、仙台で開催された「農商工連携プロデューサー育成塾」で、野菜ソムリエとして講演をする機会があった。
そこでジェラートのアイデアを話したところ、たまたま参加者の1人に「ジェラートを委託で作って、ネット販売している」という人がいた。その人から宮城県内の某ジェラート店を紹介してもらい、大澤さんがレシピを作り、加工した野菜をお店に送ってミルクベースのジェラートに混ぜてもらう形で、最初の野菜ジェラートが誕生した。
開発の途中で東日本大震災が起き、復興支援のイベントが増えたので、都内の百貨店の催事などで販売し始めた。すると、地元の野菜を生かすコンセプトが注目を集め、「第12回グルメ&ダイニングスタイルショー秋2012」のフード部門で大賞を受賞した。
しかし、大澤さんはモヤモヤしていた。自分の手で水も牛乳も野菜も地元・大崎産のジェラートを作ってみたいと考え始めていたのだ。その第一歩として、まずは鳴子の人たちにジェラートを食べてもらおうと、お店を開くことにした。
母親のお店の駐車場の一角にプレハブを置いて、お店にしようと見積もりを取ると、内装や設備も含めて600万円かかることがわかった。手持ちの資金では賄えないので、事業計画書を作って、銀行に向かった。そこで、言葉を失った。
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