日本哲学「協調と調和」が世界の規範に

国立民族学博物館名誉教授・佐々木高明氏④

ささき・こうめい 1929年、大阪府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。立命館大学助教授、奈良女子大学教授、国立民族学博物館教授、同館長を経て、同館名誉教授。財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構理事長も務めた。近著に『日本文化の多様性』。

日本文化は単一・同質の文化ではありません。1980年代に、時の首相が「日本は単一民族の国家だ」と発言して物議をかもし、その後も同様の発言を繰り返す政治家が何人もいます。しかし、それは神話にすぎません。

明治以降の近代化政策の中で、画一的な国民文化が生み出され、強制されてきたにすぎないのです。この誤りは正していかねばなりません。

これからは地方の多様な伝統文化のよさを見直し、その価値を認めることが重要です。昨年の政権交代後、「地域主権」が言われています。しかし、「地域」は単なる行政や経済活動の単位として考える以前に、生活の営みに満ちた実体として把握されるべきものです。地域の人々の生活と歴史を反映した、伝統文化の再発掘と活性化が強く望まれます。

伝統文化をどう継承するか?

具体的にどうすればよいか。たとえば最近よく言われる「食育」です。地域の特産を独自の方法で調理する郷土料理には、地域ならではの知恵がたくさん詰まっています。これを学び伝えていくことは伝統文化を活性化します。地域で生産されたものを地域で消費する「地産地消」も、地域を見直すことになります。

伝統的な祭りや芸能の伝承も重要です。こうしたさまざまな情報を再発掘し、今の生き生きとした情報として再発信することが伝統文化の活性化につながるでしょう。

ただし多様性と創造性への配慮を忘れてはいけません。伝統文化は歴史の中で生み出された遺産の一つです。歴史的遺産は、決して固定化され、型にはめられたものではありません。伝承され継承されていく過程で自己革新を繰り返し、発展してきました。創造的な動きの中で活性化してきたものなのです。

 たとえば歌舞伎は出雲の阿国が京都の四条河原で踊ったのに始まりますが、長い歴史を経る中で、女性は舞台に上がらず、男優が女性を演ずるようになって今日に至っています。

今、日本文化の多様性を再確認することは、世界の動きの中でも、非常に重要だと考えています。西欧近代主義が掲げた「進歩と発展」の単一の価値観は行き詰まっています。アジアや南米が台頭し、多文化・多文明を世界の国々は認めていかなければなりません。

多神教で多様な価値を認め、さまざまな文化によって形成されてきた日本。その歴史の中で育まれてきた「協調と調和」の哲学は、これからの地球的社会の行動規範の基礎となりうるのではないでしょうか。多文化国家日本が持つ可能性はとても大きいのです。

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