アイヌの差別から何を学ぶ 国立民族学博物館名誉教授・佐々木高明氏②

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ささき・こうめい 1929年、大阪府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。立命館大学助教授、奈良女子大学教授、国立民族学博物館教授、同館長を経て、同館名誉教授。財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構理事長も務めた。専攻は民族学。

日本は今人口がどんどん減っています。将来、たくさんの外国人を受け入れるかもしれません。現に今も看護や介護の分野で、フィリピンやインドネシアの方に来てもらっています。しかし、看護師の国家試験は、難しい漢字で書いてあり、外国人ではとても合格できません

このように日本が外国人に対して柔軟な対応ができないのは、明治以降作り上げた「日本は単一民族で、一つの文化しかない」という、ナショナルアイデンティティの殻の強さがあるからだと思います。

日本にはもともと多様な文化があり、価値軸の多様性がありました。グローバル化が進む今、そのことを思い出す必要があります。

日本国内の異民族ときちんと向き合う

「日本文化は稲作文化」と昔からいわれていますが、稲を作らない非稲作の文化を持つ山の村々はたくさんありました。焼き畑で雑穀を作ったり、狩猟や林業を営んだり。日本の3分の2は山地ですから、稲作とは異なる生業や文化を持つ村々が以前には数多くありました。

また、日本列島の南と北、沖縄と北海道の伝統文化も本土のそれとは異なります。琉球王朝が栄えた南の島々。その基礎にある文化は華南や東南アジアに連なるものです。

さらに北海道の先住民はアイヌの人たちで、本土の人たちとは言語も文化も異なる人たちです。明治以降、政府は北海道への大規模な移住と開拓を進め、アイヌの生活を支えてきた、川や海での漁労や林野での狩猟を事実上禁止しました。

同化政策を強行してアイヌ語を禁止し、伝統的な祭りや儀礼、古くから伝えられてきた習俗や生活慣行などを、野蛮なものとして否定しました。アイヌの人々は、糧を奪われ差別され、生活は著しく困窮しました。

このような事態に対し1980年代からアイヌ民族の自立と権利を保障する「アイヌ新法」の制定を求める運動が起こりました。97年には「アイヌ文化振興法」が制定され、さらに国連で「先住民族の権利宣言」が採択されたのを受け、2008年には「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が国会で採択されました。

このように日本列島にはもともと起源や伝統の異なるさまざまな文化があり、その中に少数先住民族のアイヌが存在していることを、再認識すべきだと思います。

日本文化の多様性を認め、日本国内の異民族ときちんと向き合うことなしに、世界のさまざまな異文化や異民族と、しっかり付き合うことはできないのではないでしょうか。

週刊東洋経済編集部
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