イスラエルの超天才が予見するコロナ後の人類 ユヴァル・ノア・ハラリの緊急提言を読み解く

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本書で取り上げたのは、その2回目の放送だ(なお、インタビューでの応答は、推敲を重ねた刊行物の文章とは当然ながら異なる。その点に配慮して訳すようにというハラリ側の要請があったため、逐語訳にはなっていないことをお断りしておく)。

それぞれ単独でも読みごたえ、見ごたえのある内容だが、みな切り口も異なるので、いずれも評判が高かったこれらの記事やインタビューをすべてまとめて読み、ハラリの目を通して今回のコロナ禍をより多面的・多角的に眺め、考える機会を提供するというのが、本書刊行の狙いとなる。

ハラリはいつもながら、物事を単体で捉えるよりも、むしろ広い視野を保ちながら大きな歴史の文脈の中で考察する。今回も、新型コロナウイルスのパンデミックを契機にした発言ではあるが、過去を振り返ってこれが初めての感染症危機ではないことを思い出させ、「人類はもちろん、このパンデミックを生き延びます」とあっさり言い切り、無用の不安を払拭するとともに、「眼前の脅威をどう克服するかに加えて、嵐が過ぎた後にどのような世界に暮らすことになるかについても、自問する必要がある」と、私たちの目を未来へも向かわせる。

混乱をもたらしている二者択一の問題設定

現在の混乱の原因は多数あるが、興味深いのは、ハラリが挙げている、誤った二者択一の問題設定だ。これには2つある。

第1は、プライバシーか健康かという問題設定で、これは、健康のためにはプライバシーを犠牲にせざるをえないという風潮を生みやすい。だが、ハラリに言わせれば、「両方を享受できるし、また、享受できてしかるべき」である。プライバシーの問題は監視テクノロジーの問題に直結しており、ひいては民主的な社会の在り方にもつながっている。「全体主義的な監視政治体制を打ち立てなくても、国民の権利を拡大することによって自らの健康を守」れる、とハラリは請け合う。

第2は、グローバリズムかナショナリズムかという問題設定だ。この誤謬(ごびゅう)に流されると、今回のパンデミックを含めて現代社会が直面している苦難はグローバル化が原因であり、解決するためには脱グローバル化を図り、自国ファーストの路線を突き進むべきだということになりかねない。だが、それはポピュリズムを煽る利己的な指導者や独裁者を利するばかりで、パンデミックや地球温暖化のようなグローバルな問題の解決にはけっしてつながらない。

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