イスラエルの超天才が予見するコロナ後の人類 ユヴァル・ノア・ハラリの緊急提言を読み解く

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世界的ベストセラーの公式漫画化、『漫画 サピエンス全史 人類の誕生編』(ユヴァル・ノア・ハラリ/ダヴィッド・ヴァンデルムーレン/ダニエル・カザナヴ 安原和見訳)の発売が11月9日に予定されている

ハラリがこれまで繰り返し主張してきたように、グローバリズムとナショナリズムはけっして矛盾するものではない。ナショナリズムは同国人を思いやることであり、外国人を憎んだり恐れたりすることではないし、グローバルな団結が人類と地球環境の安全や繁栄に不可欠な時代にあって、脱グローバル化は自殺行為に等しいからだ。

信頼が欠かせず、1つ間違えれば独裁に

これら2つの誤った問題設定を解消するために欠かせないのが信頼だ。監視テクノロジーを活かすには、そのテクノロジーを使う機関や政権を国民が信頼できなければならない。その信頼を実現するためには、民主的な体制を維持し、治安機関などではなく、中立性・独立性・透明性の高い機関が監視テクノロジーを使うと同時に、国民の側もそうした機関や政府を監視できるようにすることをハラリは強く求めている。

緊急事態を口実に、政府や指導者が国民の信任を得ずに一方的な監視体制を敷いたりさまざまな権限を獲得したりする危険を、世界有数の監視国家イスラエルに暮らすハラリは身をもって知っている。暫定首相だったネタニヤフが感染防止対策を理由に、野党が過半数を占める議会の閉会を命じようとしたときには、これまで政治的な発言を控えてきたハラリが、「これは独裁だ」と激しい抗議の声を上げていることからも、ハラリがどれほど民主的体制と信頼を重んじているかが窺われる。

グローバルな時代における国家間の信頼関係については、ハラリはEU(欧州連合)の動向を試金石として挙げている。幸い先月、EUはコロナ復興基金に巨額の予算を充て、その半分以上は返済不要の給付金とすることを決めた。他の加盟国への財政援助を頑なに拒んできたドイツまでもが方針を転換したのは、EU内の豊かな国々が、目先のことだけを考えて自国の利益を優先しようとするよりも、自腹を切ってさえ他国を援助したほうが、長い目で見れば自国を含め全体の利益に適うという判断を下したからに違いない。

「危機はみな、好機でもある。グローバルな不和がもたらす深刻な危機に人類が気づく上で、現在の大流行が助けになることを、私たちは願わずにはいられない」というハラリの思いが一部なりとも実現したわけだ。

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