有名シェフでさえ危惧する飲食業界の根本問題 リアル店舗以外の収益源を探る動きが加速

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高島社長とは、新潟の越後妻有で行われているアートイベント「大地の芸術祭」にお互い参加していて知り合った。米澤氏は同イベントに5年前から関わり、地元の人たちと糸瓜の甘酢漬けといった、販売用の郷土料理の保存食を開発。料理を継承し、農村に雇用が生まれることを期待している。

一方で、自身のレストラン「ザ・バーン」でもこれまでにないことを始め、結果的に新たな顧客を取り込む契機となった。それが、看板料理のステーキ250グラム分をドン、と挟んだステーキサンドのテイクアウトである。価格は4200円と決して安価ではないが、これが5、6月の土曜日には30個も売れるほど人気になった。

同店も緊急事態宣言の発令後、1カ月間休業。5月7日に営業を再開した時点では、ほとんど客が来なかったという。そこでテイクアウトを始めることにしたが、先行する店が多い中、個性を出すにはどうしたらいいか考え抜いた末、たどり着いたのがボリューム感満点のステーキサンドだった。沈んだ雰囲気の中、ボリュームに驚く客が思わず笑顔になり、食べておいしいと満足する商品を出したいとの考えからだった。

約250グラムのステーキを挟んだステーキサンドは今でも人気商品だ(撮影:今井康一)

プロのカメラマンに撮影を頼んでインスタグラムにアップしたところ、購入する人が増え、その味に惹かれて、今度は店に食べに来る──。好循環が生まれ、5~6月に食べに来た客の3分の1が、インスタがきっかけの新規客になるほどだったという。

若いカップルや女性客が増えた

「今も新規のお客様は多く、若い方はほぼ新規です。コロナ前とは客層が変わりました」と米澤氏。内装がモノトーンで、料理もとくにインスタ映えする派手さがないせいか、以前は40~60代のビジネスマンが中心で、接待や会食のグループが多かったという。しかし、コロナ禍で接待需要が減った今は、若いカップルや女性客が多い。

レストラン「ザ・バーン」の店内(撮影:今井康一)

「前はアラカルトで大ぶりのお肉を召し上がる方が多数いましたが、2名や3名の少人数グループになったこともあり、カジュアルな5500円のコースを新たに作ったところ、若い方はほぼそれを注文されます」(米澤氏)。同店の以前の客単価は約1万円だったという。

米澤氏のインスタのフォロワーは、もともと5500人ぐらいだったが、6月末には1万人と倍増。人気が出たのは、ステーキサンドの投稿だけでなく、前述のリモート料理講座など、インスタライブなどの動画の発信を積極的に行ってきたからだ。それでも、8月は通常の6割程度しか客が来ないなど、コロナ前水準を取り戻すのは容易ではない。

それはそもそも、コロナ以前から飲食店業界が、店舗過多など構造的問題を抱えているからでもある、というのが米澤氏の見立てだ。

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