迅速な結果判明がウリ「日本製」PCR装置の実力 全工程を自動化し、感染リスクを軽減

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エリートインジーニアスは2015年に発売され、フランスなど欧州を中心に世界50カ国以上で500台以上の販売実績を持つ。反面、日本では新型コロナウイルス感染が広がる以前、PCR検査装置への需要が乏しかったこともあり、厚生労働省による検査試薬とセットでの保険適用を経て販売に漕ぎつけたのは2020年8月になってからだ。

野心的な将来構想を語る田島秀二・プレシジョン・システム・サイエンス社長(撮影:梅谷秀司)

もっとも、新型コロナウイルスのパンデミックが発生して以降、「それまでとは違った次元での検査装置やDNA抽出試薬、プラスチック容器の増産が続いている。中でも子会社工場でのプラスチック容器の生産は3昼夜ぶっ通しで何とか対応している状態だ」(PSSの田島秀二社長)。さらに、「あまりにも急に需要が伸びているため、協力工場に委託している検査装置の生産は現状の2~3倍にする必要がある。DNA抽出試薬やプラスチック容器は4~5倍にしていかないと安定供給を果たせない」と田島社長は現在の課題を説明する。

そのため同社では、経済産業省の新型コロナ対策の補助金採択をにらんで新工場の建設を決めた。秋田県大館市にある子会社の敷地内に、2年後を目指して工場棟を新設する。

近く、唾液を用いた検査にも対応へ

今秋から冬にかけてインフルエンザとの同時流行期をまもなく迎えることに加え、さらには海外との往来が緩和されるようになれば、新型コロナウイルスの検査需要は大きく高まることが予想される。迅速に判定できる抗原検査キットも導入されているが、遺伝子を増幅させることで、微量の検体でもより高精度で感染の有無を見分けることのできるPCR検査のニーズは高い。

PSSでは現在の鼻咽頭ぬぐい液に加え、唾液を用いた検査にも対応すべく、承認申請手続きを進めている。また、複数人から採取した検体を混ぜて検査し、陽性が判明した場合にだけ、もう一度個々に検査し直して感染者を突き止める「プーリング」という手法も開発中だ。また、年内発売予定の24人の検体を同時に検査できる新装置では、取り扱いが容易な真空凍結乾燥状態にした検査試薬を用いる。

PSSによる全自動検査装置の開発着手は、10年以上も前にさかのぼる。これまでは開発費用の先行で赤字決算の年が多かったが、新型コロナウイルスパンデミックという想定外の追い風が吹いた。2021年6月期の連結売上高は前期比5割増の77億円、営業益は5億円の黒字(前2020年6月期は8200万円の赤字)を想定している。

「今後は新型コロナだけでなく、新たな感染症が広がる事態を踏まえ、供給体制を整えていきたい。がんなどの遺伝子解析ニーズにも対応する。そして日本での成功を突破口に、欧米を中心に自社ブランドでの海外展開を進めていきたい」。田島社長の将来構想は膨らむ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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