「個タクじゃないのに年収1000万」荒技師の流儀 流転タクシー第7回、稼ぐ法人ドライバーの半生

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一般的に法人ドライバーの営業スタイルは、街中での「流し」と、特定の場所の「着け待ち」に分類される。中山さんの営業も、六本木と銀座に特化した「着け待ち」。だが特異なのは、この2カ所に100を軽く超える固定客を持っていることだ。長距離がメインでない顧客も含めると、リストの数は200にも上る。

前提として、法人ドライバーで顧客を持ち、維持することは非常に難しいとされる。勤務日数の少ない法人ドライバーが、顧客を回し続けることは不可能に近いからだ。もう1つは、予約を1人でさばききる術を持たないことが挙げられる。

だが、中山さんはいかにも泥臭い手法でこの2つの問題を解決した。

「去年までの話ですが、東京の売れているドライバーだと年収800万円くらいまではいく人が結構多い。だが、その先を超えるのが本当に難しいんです。効率を考えると、法人でも顧客を持たないとプラスアルファの200万には届かないと気づきました。

今の会社は多く入れて1カ月で約20日出勤(夜勤のみ)で、1カ月で140万円を稼ぐためには1日約7万円が必要。この数字を週末や繁忙期で達成するのは難しくないが、常時キープとなるとハードルが高い。そこで同じように顧客を持つドライバーのコミュニティーに参加したり、積極的に会いにいくようにしたんです。

その結果、今は予約を受けて私が休みのときに仕事を手伝ってくれる仲間が20人くらいになりました。以前の同僚や、個人の方まで幅広い層です。そのメンバーの半分くらいが顧客を持っていて、お互いに回しあうので、結果的にはWin-Winなんです。私の場合は、グループの総計で300人近いお客さんがいる計算になりますね」

このグループのほかのメンバーにも話を聞いたところ、中山さんはグループ内でも顧客の数が多く、一目置かれる存在だという。中山さんの“営業術”とはどのようなものなのか。

「六本木と銀座にいるとき限定ですが、9割以上の方に車中で営業をかけていますね(笑)。もちろん嫌がられる方もいますが、だいたいの人はタクシーで営業をかけられると思っていないから、案外受け入れられるんですよ。

100人声をかけたら、そのうちの10%くらいがまた使ってくれて、その中でいいお客さんとして残っていただけるのが3割くらいです。今までの仕事で散々挫折を味わってきたので、声をかけるくらいは痛くもかゆくもないですよ」

中山さんは「営業なんて断られてからが仕事」と力強く言う。法人ドライバーとしては異色ともいえるそのスタイルの背景には、歩んできた人生と重なる部分が大きい。

中山さんがたどった数奇な人生

タクシードライバーはさまざまな経歴を持つ人が流れ着く職業ではあるが、中山さんの軌跡は取材対象者として非常に興味深く映った。

福岡県の田舎町で生まれた中山さんは、地元の高校を卒業後、福岡県内の大学に進学した。祖父は鉄工所を経営し、代々受け継がれてきた広大な農地を借地として貸していた。地元でも裕福な家庭だった、と回顧する。

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