「父親がギャンブル狂で、祖父の財産もすべて溶かしてしまったんです。だから自分はギャンブルだけはしないと決めていたんですが、結局血は争えないということなんでしょうね。信用取引にはまってしまい、留保金もどんどん消えていった。会社をたたむ前には全財産である700万を持ってラスベガスのカジノで勝負して、すっからかんになってしまった(笑)。
その後、会社を潰したことで心を病んでしまい、地元で療養していたんですが、上京資金として手元に残していた20万円もオートレースで負けてパー。結局、親父と一緒でバクチで人生が狂ってしまったから皮肉ですよね。
ただ、本質的なところでいえば、仕事を取ってくる力はあるけど、その顧客を守り、伸ばしていく力が私にはなかったということです。そういう意味では、タクシーの仕事は合っているのかもしれません」
タクシーの仕事は自身に合うと話す中山さんだが、業界の風習や旧態依然の体質には強い嫌悪感を抱いているという。これまで働いた会社では圧倒的な数字を叩き出してきたことから同僚のやっかみも受け、退社を余儀なくされたこともある。
「以前働いていた2社では、同僚から役員に『あいつは運転が荒い』『お客様からクレームが来ている』『他社のドライバーと手を組んでいる』などと告げ口され、定例会や忘年会で役員から名指しでつるし上げられたりもしました。確かに私のやり方は強引だし、法人でこれをやり続けることで敵も多くなる。
でもね、そんなことはどうでもいいし、結局はいくら稼げるかが勝負の世界。これは私も含めてですが、稼ぐドライバーはすべてで荒い面がある。運転もそうだし、性格もそう。効率を重視するあまり、事故を起こすこともある。
でも、そんなガツガツいく強引なやり方だと限界が来るんだな、ということも強く感じています。去年くらいから、休みの日にお客様と飲みにいったりするようになり、仕事に対する考え方も変わってきました」
中山さんにもコロナ禍は例外でない
新型コロナウイルスの影響もあり、今年は前年比で約20%の売り上げ減にも直面している。その他大勢のドライバーに比べるとこの減少幅はかなり小さいといえるが、やはりコロナ禍の影響は受けているのだ。そして、おそらく去年までのような世界線に戻ることはもうない、と中山さんは言う。
「どれだけ突き詰めて頑張っても、法人だと月収で90万~100万円が天井なんです。私の場合、ほとんど乗客が途絶えることがないレベルでやってきて、1人当たりの単価も悪くない。ただ、ここがもう限界だとも思っています。人々の意識が代わり、おそらくコロナ前のような水準に戻ることはもうないでしょう。
ドライバーとしてもそうですが、私の人生は“成功できない”というコンプレックスを補うことをモチベーションにしてきた。だから借金まみれでも、自己破産だけは意地でもしなかった。そのために家族には迷惑かけてきましたが、私の人生で誇れることがあるとするなら、それでも妻は黙ってついてきてくれて、離婚に至らなかったことでしょうか」
中山さんはこの業界に入って以降、家族と過ごす時間が増えたという。借金完済までの道のりは遠いが、2年後に有資格を得る個人タクシー開業のための準備を進めている。
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