「インフルエンサー」は本当に使えるのか? なぜ、あの人のクチコミは影響力があるのか(2)
一方、「アンチ・インフルエンサー学派」と呼ぶべき研究群があります。その急先鋒は元コロンビア大学で、現在米国Microsoft Researchのダンカン・ワッツです。ワッツは『スモールワールド・ネットワーク―世界を知るための新科学的思考法』、『偶然の科学』といった刺激的な著書をいくつも書いている、私の憧れの研究者の一人です。
彼はインタビューのなかで情報の伝播を山火事にたとえ、山火事が大惨事になるかどうかは、何日雨が降らなかったか、その日の風の強さはどうだったかなどの環境に依存し、誰が最初にマッチを擦ったかは関係ない、としています。そして、大規模な伝播はインフルエンサーによるものではなく、簡単に影響される人の数がクリティカル・マスを超えたときに起こる、と論じています。最初にこの「山火事理論」に出会ったときは、自分自身とても衝撃を受けました。
彼らはツイッターのデータを用いた実証分析を行ない、クチコミ情報は小さな伝播によって広まっており、それを支えているのはインフルエンサーではなく普通の人であると主張しています。彼らの一連の研究は、インフルエンサーを活用してマーケターにとって都合のよい情報をウェブ上で流行らせることは、幻想であることを訴えています。
発信者と受信者の「社会的文脈」の重要性
一方の学派はインフルエンサーを情報伝播のカギであるとし、もう片方の学派はそれが幻想であるとしています。そもそもどうしてこのような議論になるのでしょうか。
一つは、影響力やインフルエンサーに関する議論の多くが、クチコミ発信者主体に考えられており、情報の受け手である受信者などクチコミを取り巻くさまざまな要因が忘れられたまま、影響や伝播が語られているためです。
『キーパーソン・マーケティング:なぜ、あの人のクチコミは影響力があるのか』(東洋経済新報社)のなかで詳しく説明していますが、クチコミは多くの要因が複雑に影響しあって起こり、認知、感情、行動への影響といった効果を生み出すものです。しかし、クチコミに関する過去の研究の多くはオピニオン・リーダー度など個人要因に焦点をあてており、発信者と受信者の置かれた社会的文脈は軽視されてきました。社会的文脈とは、簡単に言うとクチコミを発信する人と受信する人がどれくらい似ているのか、どれくらい強い関係で結びついているのか、といったことです。
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