ポストコロナの経済と菅内閣が直面する課題 BNPパリバ・エコノミスト河野龍太郎氏に聞く

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――そうした中で、新型コロナウイルスの流行が起きました。

今回のパンデミック危機で、結果的にお金を貯め込んでいた企業が生き延びた。アメリカではまだ、果敢に投資を行ってきた企業があるが、債務の大きいところは、破綻リスクが高いと見なされて2~3月に株価の大幅な下落に見舞われた。したがって、日本企業は内部留保を貯め込んでいてよかったという成功体験ができてしまい、ますます、投資をしなくなるのではないかと危惧している。アメリカ企業も今、債務返済を優先し、今後は投資に慎重になっていくのではないか。

――金融政策を見ているとECB(欧州中央銀行)もFRB(連邦準備制度理事会)も本当に日本銀行の後を追っているという感じです。財政はどうでしょうか。

日本と欧米は少し違うけれども、近づいてきているとも言える。

金融政策が効かなくなってきているので、財政出動に頼らざるをえない。国債発行の増加を放置して金利が上がるとマクロ経済の不安定化、金融システムの不安定化が起きるので、金利の上昇を抑え込まざるをえない。中央銀行が金利を抑え込むと、財政拡張のコストはゼロであるかのように見えてしまうので、ますます財政の中央銀行への依存度が高まる。とくに、パンデミック危機の下では、どこの国の国民も追加財政に反対しないので、こうしたことが続きやすくなる。

欧米はまだ財政の際限なき膨張には至らない

欧州では、従来は北の国々は厳しくて財政拡張をやらない方針だったが、南欧の国々のサポートをしなければならないということで、今回、欧州復興基金を設定して欧州共同債を発行することになった。だが、気候変動対策や5G投資など賢い使い方をしましょうというコンセンサスがある。また、後の世代にツケを残さないという考え方で、炭素税やオンライン課税、各国からの出資で回収しようという議論になっている。独仏もパンデミックに要した費用は20年程度で返済する方針を示している。

アメリカでも民主党は気候変動対策への投資(グリーンニューディール)を主張しているが、大統領候補のバイデンも副大統領候補のハリスも中道派で、MMT(現代貨幣理論)に与(くみ)しているわけではなく、法人税増税を行うと言っている。また、トランプ大統領に乗っ取られた感のある共和党も、トランプ後は元の「小さな政府」を主張する党に戻る可能性もある。

短期的には各国とも中銀ファイナンスで追加財政を賄っているのは事実ではあるが、今回のパンデミック危機下の公的債務膨張の先に、日本と同様に財政規律が弛緩し、制御不能な水準まで膨張していくリスクがあるかと言えば、そこまではいかないと思っている。

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