ポストコロナの経済と菅内閣が直面する課題 BNPパリバ・エコノミスト河野龍太郎氏に聞く

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河野龍太郎(こうの・りゅうたろう)/1987年横浜国立大学卒。住友銀行、大和投資顧問、第一生命経済研究所を経て2000年から現職。政府の審議会などの委員を歴任。著書に『金融緩和の罠』(共著、集英社新書)など。共訳にアラン・ブラインダー『金融政策の理論と実践』(東洋経済新報社)など(撮影:尾形文繁)
新型コロナウイルスの流行でアメリカの128カ月続いた景気拡張が終わりを告げた。日本は2012年11月からの景気拡張がすでに2018年10月に終了していたが、2020年は5%台のマイナス成長と予想されている。折しも、日本では戦後最長となった安倍晋三政権が幕を閉じ、菅義偉政権が16日に発足した。新政権の直面する経済面での課題は何か、また、新型コロナをきっかけに中長期で経済はどう変わるのか。BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏は、「パンデミック危機は何かを変えるというよりも、今ある問題を加速させる」と話す。

生産性上昇率の低下、潜在成長率の低迷が問題

――菅義偉政権が16日に発足しました。コロナ前の完全雇用の下でも日本経済は停滞していると感じていた人が多いと思います。問題はどこにあるのでしょうか。

生産性上昇率が低下傾向を続けてきたことだ。労働投入は増えたが、資本投入と、技術進歩などがかかわるTFP(全要素生産性)は下がってしまった。普通は景気回復が長期化すると生産性が高まるとか、潜在成長率が上昇することを期待するだろう。しかし、そうはならなかった。

アベノミクスは景気拡大を長期化させた一方で、完全雇用に到達した後も、金融緩和と財政拡大のマクロ安定化政策を続け、その結果、資源配分が歪み、採算の低い企業や事業が生き延びられたので、生産性上昇率が下がってしまった。そのため、賃金も上がらず、インフレ率も上がらなかった。

不況期に失業が増えないように、マクロ安定化政策を行うわけだが、完全雇用に到達すれば、これをやめて、生産性の上昇を促すような政策をとらなくてはならない。安倍政権下では超人手不足になったにもかかわらず、マクロ安定化政策を続けたため、企業は生産性を高めるようなIT投資や人的投資も行わず、潜在成長率が下がってしまった。生産性も上がらなかったから、賃上げもできなかった。

――最近は、欧州やアメリカも低金利政策が長引くことになり、「日本化(ジャパニフィケーション)」が言われています。河野さんは早くからこの問題を指摘しています。あらためて、「日本化」を定義してください。

将来の成長に期待が持てないので、企業が儲かってもお金を使わない。すなわち、設備投資や賃上げを行わない。一国全体で貯蓄が増えてしまい、貯蓄が増えるから貯蓄と投資をバランスさせる自然利子率が下がってしまう。そうすると金融政策も効かないから、景気刺激もできず、インフレ率も高まらない。

本来は、潜在成長率を引き上げる政策が必要だが、成長率も低いしインフレ率も低いから金融緩和が止められない。自然利子率がマイナスの領域に入って金融緩和は効かないままだから、財政出動を繰り返す。それによって、さらに資源配分の歪みを助長し、いっそう生産性が下がり、潜在成長率も下がる。低成長、低インフレ、低金利が続き、膨張した公的債務だけが残る、というものだ。

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