35歳超の非正規男性が悲惨なほど困窮する現実 正社員と違い年齢を重ねても賃金が上がらない

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では一方の非正社員の人の賃金はどうかといえば、年功序列という勤続年数による賃金増加はなく、中年になっても時給が1100円前後であり、それが高年まで続く。30歳から49歳までの時給は1100円で、たとえ1日に8時間、月に22日というようにあたかもフルタイムのように働いたとしても、月額で19万円前後の賃金にしか達しない。現実は労働時間が短いので、この額より低いのは確実である。一般労働者としての非正社員の時給を1300円とみなして同じように月額賃金を計算しても、おおよそ23万円程度にしかならない。

未婚者であれば結婚して家庭を持つ人生は不可能

これら中年になってから20万円弱、あるいは高くても23万円の月額の収入であれば、生活が非常に苦しいことは確実である。所得税を払っているかどうかは課税最低限所得あたりなので、ゼロかとても低い所得税しか課せられないであろうが、社会保険料負担がもしあればそれが控除されるので、可処分所得はもっと低くならざるをえない。既婚者で子どもがいれば生活保護支給を必要とするほどの生活困窮者になること確実である。未婚者であれば結婚して家庭を持つという人生は不可能である。

さらに付言すれば、ここで挙げた時給の額は、該当する労働者の平均額であり、この平均額より低い額の賃金しか受領できない人が相当数いることを忘れてはならない。これらの人を貧困者とみなせることは当然であり、悲惨な経済生活を強いられているのである。

ただしここで留意すべきことがある。後に示すように、中年の非正規ないし非正社員の労働者の多くは女性、特に既婚女性で占められている。中年で単身の女性、ないし男性でここに該当する人はそう多くない。

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こういう人が該当しているなら中年貧困者とみなしてよいが、多くを占める既婚女性においては夫の収入が充分にあれば、貧困の状態にはいないと解釈してよい。ただし、夫が失業しているとか、夫の収入が低ければたとえ夫婦が働いていたとしても、貧困者になる可能性はある。

もう一つ重要な留意点は、中年の女性で離婚した人は、一部のキャリアウーマンでフルタイムで働いていた人を除いて、一気に貧困者になってしまう点である。特に専業主婦だった人、パートなどの非正規労働であった女性は、技能の程度が低いだけに、離婚後に賃金の高い仕事を探しても、なかなか見つけられないのは確かである。

日本では男性よりも女性が離婚後に子どもを引き取る確率がかなり高い。子どもを引き取った女性であれば、生活費を一人で負担できるほどの収入はない。母子家庭の貧困者の生まれる理由がここにあり、およそ50%の母子家庭が貧困に陥っている現状がある。

橘木 俊詔 京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授

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たちばなき としあき / Toshiaki Tachibanaki

1943年生まれ。小樽商科大学卒業、大阪大学大学院修士課程修了、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。大阪大学、京都大学教授、同志社大学特別客員教授を経て、現在、京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授。その間、仏、米、英、独の大学や研究所で研究と教育に携わり、経済企画庁、日本銀行、財務省、経済産業省などの研究所で客員研究員等を兼務。元・日本経済学会会長。専攻は労働経済学、公共経済学。
編著を含めて著書は日本語・英語で100冊以上。日本語・英語・仏語の論文多数。著書に、『格差社会』(岩波新書)、『女女格差』(東洋経済新報社)、『「幸せ」の経済学』(岩波書店)ほか。

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