東海林さだお「1人酒が持たれる残念な印象」 1人で酒を飲むのはつくづく難しいのだ
これとても、「むっつり」している以外にどうすることもできないのだ。ウヒャヒャなどと、1人で笑っていたりすれば、さらに数人がその周辺から去っていくことになる。
「しんねり」と「むっつり」のほかに、1人客には「孤立」とか「不首尾」とか「不運」とか「落莫」とか、そういった印象もつきまとう。1人で飲んでいる人は、どうしてもそう見える。何か楽しいことを考えながら飲んでいるのかもしれないのに、「反省」とか「悔恨」とか「無念」のさなかにあるように見えてしまう。
いい印象は1つもない。周りから、そういう目で見られていることがわかっているから、1人客はどうしても一層いじける。
ビールをコップに注ぎ、これを飲み、つまみの焼き魚などをつついているとき、すなわち、何らかの行動を起こしているときは、周囲に与える印象はそれほどわるくない。
(彼はいま、あのように忙しいのだ)と周りの人も納得してくれる。
ちょっと休憩しているだけで「黙考」になってしまう
問題は、これら一連の動きがとまったときである。
ただ単に、飲食をちょっと休憩しているだけなのだが、これを「黙考」ととられてしまう。「黙考」のポーズは「反省」「悔恨」の雰囲気があり、それが「不運」「落莫」の気配をただよわせてしまうのである。
これを防ぐためには、1人客は、絶えまなく飲み、絶えまなく食べなければならない。だから、誰でもそうだと思うが、1人で飲むときはどうしてもピッチが速くなる。ふだんの倍ぐらいのピッチになる。
なにしろ、ちょっとでも休むと、それが「黙考」ととられ、「反省」「悔恨」につながり、「不運」「落莫」に結びつくと思うから、休むことができない。大盛りの枝豆をいっときも休むことなく食べ続け、ふと気がつくとアゴが痛くなっていた、なんてことさえある。
1人客は、休むことを許されない。
つねに行動していなければならない。
そういう意味では、つまみになるべく手数のかかるものがいい。
枝豆、焼き魚、イカ姿焼きなどは、1人客にはうってつけと言える。
焼き魚、煮魚のたぐいは、切り身より丸1匹のもののほうがよい。骨から身をはずしたり、小骨をとったり、アゴのあたりをほじくったりして時間をかせぐことができる。
「シュウマイ3個」などというのはできることなら避けたい。
あっというまになくなってしまう。
「甘エビ3尾」も避けたい。
これはもっとあっけない。
「しらすおろし」も量が少ないから避けたい。
「なめこおろし」も避けたい。
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