東海林さだお「1人酒が持たれる残念な印象」

1人で酒を飲むのはつくづく難しいのだ

1人酒を飲む人がもたれやすい印象とは(写真:YNS/PIXTA)
「丸かじり」シリーズなど、笑いと共感の食のエッセイの第ー人者で、大のビール党である東海林さだお氏が、「ひとりで酒を飲むこと」についてひたすら考えた。本稿では『ひとり酒の時間 イイネ!』から、1人酒の難しさについてのエッセイを抜粋して転載する。コロナ時代で1人酒が増えている今、なんとなくわかる部分もあるのではないだろうか。

1人飲みのときは大きな居酒屋を選ぶ

1人で酒を飲むのはむずかしい。つくづくむずかしい。ときたま、外で、1人で酒を飲まなければならないときがある。相手もいないし、夕食はとらなければならないし、ついでに酒も飲みたいし、というようなときだ。

そういうときは、大体、居酒屋みたいなところに入る。なるべく大きな店に入る。収容人員30名以上、というのが1つの目安である。

居酒屋では、1人客は少数派である。したがって、1人客は目立つ。収容人員が多ければ多いほど、まわりの騒ぎにまぎれて目立たなくなる。周りが酔ってワイワイ騒いでいる中で、独り黙々と酒を飲み、つまみを食べる。わきかえるよう喧噪の中で、そこのところだけ、ポッカリと、陰気と沈黙と停滞の空間ができている。

1人客が店内でできることは、酒を飲むことと、つまみを食べることだけである。黙々とビンからコップにビールを注ぎ、これをグイと飲み、つまみを食べる。

これが終わるとまたコップにビールを注ぎ、グイと飲み、またつまみを食べる。

これが終わるとまたコップにビールを注ぎ、グイと飲み、またつまみを食べる。

いくら書いてもきりがないが、しかし、これ以外のことを何かしようと思っても何もできないのだ。そこでまた、黙々とビンに手を出し、コップにビールを注ぎ、これをグイと飲む。つまみを食べる……。

“黙々と”と書いたが、黙々以外の行動はできない状態にあるのだ。“何事かつぶやきつつ”ビンに手を出したら、その周辺から、1人、2人、と人が去っていくことになるだろう。

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