デザインは世界のどこでやってもおもしろい
翌年、彼女は単身アメリカに戻り、入学を延ばしていた大学院(Pratt)に入った。その修士制作と論文では、セネガルのテキスタイル会社とコラボレーションをし、セネガルの職人たちと協力して、現地の自然素材と技術を使った「100%セネガル産のベッドルーム」を制作した。この作品が、毎年ニューヨークで開かれるICFF(International Contemporary Furniture Fair)という家具のトレードショーで展示されることとなった。
権威あるこのトレードショーにおいて、学生のプロジェクトが単独展示されるのは異例のことだった。 彼女が表現したかったのはセネガルの誇りだった。貧しいからといって「かわいそう」であるわけではないし、ましてや文化の程度が低いわけでもない。彼らには誇るべき豊かな文化がある。それを伝えたかったのだという。
彼女はPrattを卒業した後、Coachを経て、現在はTUMIのプロダクトデザイナーとして働いている。数年内にその職を辞して夫の次の赴任先であるケニアへ行く予定だそうだ。ニューヨークの有名ブランドのデザイナー職などなかなか得られるものではないから、辞めることに未練がまったくないわけではなかろう。だが、先日にニューヨークで会って話したところ、彼女はケニアへの移住をむしろ楽しみにしているようだった。
ニューヨークのコマーシャルの世界ではそこでデザインする面白さがあり、セネガルにはセネガルでデザインする面白さがあると、彼女は言う。アフリカの意匠を用いたプロダクトデザインは、ほかにやっている人が少ないからこそチャンスなのだそうだ。
彼女は決して、途上国の人がかわいそうだからとか、彼らを助けたいからという理由でやってるわけではない。ただ素直にアフリカの豊かな文化に興味と尊敬の念を抱き、それに謙虚に学ぼうとしているだけなのだ。その意味で、彼女がアフリカに渡る気持ちは、僕が宇宙を目指してアメリカに渡った気持ちと、似ているのかもしれない。
別れ際、博多弁交じりのからっとした口調で「奥さんとケニアに遊びに来いね」と言ってさわやかに見送ってくれた。
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大阪生まれの文学少年で、自身でも小説を執筆し、大阪文学振興会より「織田作之助賞・青春賞」を受賞したこともある異色の経歴。米国トップ校留学のリアル、宇宙開発こぼれ話、30年間、目を明けて見続けた夢の軌跡とそこから学んだ生き方を、「理系」らしからぬ情熱的な言葉で語ります。
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