BLMと「協同組合大国アメリカ」をつなぐ点と線 「ウォール街を占拠した若者」が今取り組む仕事

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ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動に先立つ2015年に、ミシシッピ州の黒人男性が警察官に押さえつけられた後に死亡した事件で、遺族の弁護を引き受けたチョクウェ・アンター・ルムンバ氏。ミシシッピ州ジャクソン市の市長を務めた彼の父は、「協同組合」を問題解決の重要な手法として構想していた矢先に謎の死を遂げた(撮影:ネイサン・シュナイダー)  
コロナ禍は主要各国のGDPの大幅な下落を招くなど、世界的な大不況への引き金になりかねない様相を呈している。では、こうした事態が招く経済成長を期待できない時代に適応した新しい働き方や暮らし方、組織の形はどのようなものになるだろうか。
このたび上梓された『ネクスト・シェア――ポスト資本主義を生み出す「協同」プラットフォーム』では、気鋭のアメリカ人ジャーナリスト、ネイサン・シュナイダーが、人々の生活に密着しながらボトムアップ式に社会を動かす協同組合に改めて光を当て、その可能性を示している。本稿では、同書の訳者・月谷真紀氏が、協同組合の意義や新たな可能性を提示する同書について内容を紹介する。

「ブラック・ライブズ・マター」前史

2020年アメリカではブラック・ライブズ・マター運動が大きな波となったが、1960年代後半に新アフリカ共和国(RNA)という運動があったことはご存じだろうか。黒人の自治国家をアメリカのど真ん中に樹立しようとしたのである。

『ネクスト・シェア――ポスト資本主義を生み出す「協同」プラットフォーム』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

闘士の1人だったチョクウェ・ルムンバは後年、もっと堅実な形でアフリカ系アメリカ人が自己決定権を持てる場所を作ろうとした。アメリカ南部ミシシッピ州ジャクソン市での出来事を、『ネクスト・シェア――ポスト資本主義を生み出す「協同」プラットフォーム』の著者シュナイダーはサスペンスタッチで描いている。

ルムンバがやろうとしたのは、選挙という手続きを経てジャクソン市の市政に入り、市内に黒人自治区を作ることだった。

彼は自治区の経済基盤として、市のさまざまな事業を請け負う労働者所有の協同組合を構想した。市長に当選すると、彼はまず財政難で機能不全に陥っていた生活インフラの復旧に奔走し、白人ビジネスマンたちとの信頼関係の構築に努めて、市が抱える問題を解決するために人種にこだわらず連携した。

しかしいよいよ黒人自治区の実現に乗り出そうとした矢先に彼は急死し、死因に疑惑が集まる。利潤の大きな市のインフラ契約の入札法にメスを入れ、そのお金を外部企業ではなく協同組合に回したい考えを明らかにしたルムンバは、越えてはならない一線を越えたのだ。

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