BLMと「協同組合大国アメリカ」をつなぐ点と線 「ウォール街を占拠した若者」が今取り組む仕事
スペイン人のエンリック・ドゥランは返すつもりのない事業資金を複数の銀行から集め、現代の義賊としてよくも悪くも有名人になった。その資金をすべて使って社会変革を呼びかける新聞を大量配布した日は、くしくもリーマン・ブラザーズが破綻した2日後だった。
彼はまず協同組合のネットワーク「カタラン・インテグラル・コーポラティブ(CIC)」を立ち上げた。折しも財政緊縮と汚職への抗議デモがスペインを席巻していた。世界金融危機によって失業した人々が食べていくために個人事業主として請負仕事をしようとすると、スペインの税制では高額な自営業者税を取られてしまう。
しかし仕事が協同組合内で発生したと主張すれば、税は適用されない。ドゥランは既存の法律をハックする手段として協同組合を利用することを思いついたのである。各地の町の広場を埋めたデモ参加者たちは続々とドゥランの協同組合に加盟した。
同じスペインにはバスク地方に、モンドラゴンという有名な協同組合の共同体がある。1956年に起業家精神のある司祭によって開設されたモンドラゴンは協同組合のネットワークで、工場、学校、銀行、小売店などの集合体をそこで働く人々が所有し統治している。
しかし2000年代に生まれたCICは、モンドラゴン路線の安定した正規の職を求めることに見切りをつけていた。ドゥランには従来型の協同組合事業を作るつもりはなかった。
それよりも協同組合の傘を作り、その下で形を問わず人々が自分の好きなように生活を営み働けるようにしようと考えた。彼らは日常生活の構造そのものを作り変えようとしている。ドゥランは現在、仮想通貨による独自の経済圏を創造することに挑んでいる。
多様な生き方を支える手段
著者シュナイダーの父親は不動産仲介業を営み、家族にとって一生で最大の資産となるマイホームの購入を手伝う仕事に情熱を傾けた。
しかし郊外に庭付き一戸建てを構えて家族で暮らし、住宅と自動車と教育、3つのローンを定年までに払い終える……そんな「ふつうの」人生は経済情勢や社会構造の変化によってままならなくなった。
シュナイダーは子どもが生まれてからもマイホームを建てて定住する暮らしをせず、賃貸生活を続けている。仕事のチャンスがあれば身軽に動けるように自ら選択した結果だと彼は書いているが、物心ついた頃から職の安定が保証されない時代を生きている世代の自衛策でもあるのだろう。
シュナイダーが住むコロラド州ボルダーには、1軒の家に血縁のない者3~4人以上が同居するのを妨げる居住者数制限があった。
血縁の家族に相当する集住の形として、住宅協同組合を市議会に認可させようとする市民運動が2016年に起きた。集まって暮らせば住居費をはじめ生活コストを下げられる。
お金のない学生が恩恵を受けるのはもちろん、起業家やアーティストにとってはリスクをとった仕事選びをして人生で挑戦しやすくなる。血縁の家族の家に居場所がない人もいる。
市議会のパブリックコメントで発言した1人は、住宅協同組合が性的指向の多様性を受け入れ、ほかに行き場のない人々のための避難場所になると当事者の立場から語った。「孤立を法制化しないで」と訴えた人もいた。
古くからの住民の一部は若者の集団生活を警戒し、住環境が荒れる、持ち家の資産価値が下がると反対した。根底にあったのは街が変化することへの抵抗感だ。
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