BLMと「協同組合大国アメリカ」をつなぐ点と線 「ウォール街を占拠した若者」が今取り組む仕事

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しかし住宅協同組合のグループが中心となったこの運動は、住宅協同組合作りを新たに目指す定年退職者のグループも味方に加わって大きく盛り上がった。

市民たちは「条例の提案を起草し、公共イベントを開催し、味方になってくれる市議会議員立候補者の当選を助け、市議会会議が開かれるたびに傍聴席を埋め、ミームを作ってソーシャルメディアに投稿し、別の会議にも大勢で参加し、公開データを集めてスプレッドシートやグラフを作成し、陳情書を書き、友達に書いてもらい、私にも書かせ、市議会議員を視察に招き」、つまりオーソドックスな民主主義の手順を愚直に踏んでいった。

やがてまだ不十分な内容ながらも、市議会で協同組合条例が成立した。これは、既存の社会の枠組みの中で多様な生き方を支える方法として協同組合を活用した例といえる。

新たなエコシステムを創る

インターネット上のプラットフォームに協同組合モデルを取り入れる動きもシュナイダーは追っている。

2000年代からシリコンバレーを中心にシェアリング・エコノミーという概念が広まった。自宅の一室や自家用車から時間やスキルまで、個人が所有するさまざまなものをプラットフォームを介してシェアする。この行動様式が定着すれば、新しい経済が到来するのではないかと期待された。

しかしふたを開けてみれば、シェアリング・エコノミーは利用条件の設定権を握る巨大プラットフォーム企業に個人が手数料や労働力を搾取される、資本主義システムの一形態にすぎなかった。プラットフォーム企業を背後から操るのは企業の所有者として利益を求める投資家たちだ。

ストックフォト会社の幹部だったブリアナ・ウェットローファーは、画像素材を提供するアーティストへの支払額を下げろと投資家から圧力をかけられることに葛藤を感じて退職し、ストックフォトの協同組合ストックシー・ユナイテッドを創設した。

あらゆるものを犠牲にして成長を追求するのではなく、組合員であるアーティストたちに公正な支払いをして質の高い作品を確保することを優先し、品質重視の顧客を獲得した。プラットフォームの経営に協同組合モデルを持ち込んだ先駆的な事例である。

プラットフォーム上でモノや労働力を共有するだけでなく、プラットフォームそのものの所有権をユーザーである自分たちで共有したらどうなるだろう。

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