職場でタバコ、酒、セクハラは日常茶飯事!?

60年代の職場は、「男のディズニーランド」か

頂点を目指す男は、いつか転落?

一方で、圧倒的に男性優位の社会において、男性は現代と比べるとどうだったのだろうか?

実はアメリカでは、本作は「大人の男性のディズニーランド」と形容されることがある。これまた微妙な表現ではあるが、たばこ、酒、セックス、セクハラがフリーで、権力に真っすぐ向かう男たちが中心の世界観は、確かに男性にとって、ある種の夢ではあるのかもしれない。もっとも、これを肯定してしまうと、本音では男尊女卑を肯定したいのかなどといった問題もある。

いずれにせよ、男性が男性らしくあることを求められるというのも、なかなか厳しいものがあるだろうと思わされる。ドンたちが背負っているものの重さは、冒頭のタイトルバックが象徴していると思う。当時のアメリカの繁栄ぶりを彷彿とさせる華やかな広告の画を背景に、ドンとおぼしき男性の黒いシルエットが高層ビルから墜落していく。いわゆるアメリカン・ドリームを信じて頂点を目指すも、彼らはつねに転落することを恐れているか、あるいはいつかは転落することを、暗示しているのだろうか?

この転落のイメージは、アメリカがこの後、キューバ危機、ケネディの暗殺、そしてベトナム戦争が暗い影を落とす時代へと進む予兆でもあるかのよう。あるいは、ドンをはじめとするアメリカン・ドリームを貪欲に追い求める人々の多くには、こうした末路が待っているとでもいうかのように、つねに本作につきまとうものである。

40年以上経っても、本質的には変わっていない

これまで述べてきたように、『マッドメン』には、たばこ、酒、セックス、男尊女卑ほか、公民権運動がムーブメントとなりつつある黒人やユダヤ人などへのあからさまな人種差別、同性愛者などLGBT(レズ、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)への差別など、現代ではタブーとされている描写が頻繁に登場する。

こうした60年代の人間模様を見て、人は何を思うだろうか?

ノスタルジーを覚える人もいれば、自分とは関係ない世界だと感じる人もいるかもしれない。過去を描いた本作が、これほどまでに現代性を備えていることに驚かされる人々も、また多いに違いない。筆者もそのひとりだ。

実際に、アメリカでは『マッドメン』で描かれる世界と、40年以上経った現代社会の実情を比較した記事を時折見かけるが、大抵の場合、さして変わっていないのではないかという結論に達している。

たとえば、アメリカの職場環境は依然として白人男性が優位で、フルタイムの女性の給与は男性の8割程度という数字もある。ドラマでは男性と対等に働くようになるペギーが、後々、この問題に立ち向かうことになる。

職場での人種やLGBTに対する差別は、セクハラと同様、なくなったと考える人は、日本よりずっと意識が高いと思われるアメリカでも皆無だろう。職場では女性の3分の1がセクハラに遭っているという調査結果があるそうだが、日本でも男性社員の言動によって、何かしら気持ちの悪い思いをしたことがある女性は多いはずだ。

女性がいくら頑張っても男性と同等にはならないのだという失望感は、専業主婦への回帰を記した話題の書である『ハウスワイフ2.0』現象からもよくわかる。もっとも、今の時代にハウスワイフを選択する女性は、これが新しいフェミニズムの形であるとも言い、「昼間にメロドラマを観る1960年代の無気力な専業主婦とは違い、退屈でもなければ欲求不満でもない」と区別しているようだが、『マッドメン』では、ドンの妻を筆頭に、結婚を機に仕事を辞め、主婦となった女性たちの苦悩も描かれている。彼女たちが抱える問題はさまざまだが、これもまた驚くほど現代性を感じさせるもので興味深い。『ハウスワイフ2.0』を読んだ人は、現代とこの時代の専業主婦の何がどう違うのかを考えながら、ドラマを見てみるのも面白いだろう。

筆者は、以前、ロサンゼルスのパネルディスカッションで本作のクリエーターである才人マシュー・ワイナーの話を聞いたことがある。『マッドメン』で描きたかったことについて、「変わったものもあるが、変わらないものもある」と語っていた。変わらないものとは何だろうか?

そのひとつには、男女の関係性が挙げられるだろう。1960年代から考えれば、女性の社会的地位は向上し、夫婦生活や家庭における役割なども変化したことは確かだ。それでも本作を見ていると、本質的にはあまり変わっていないのではないかと思えてくるのだが、どうだろうか。

いずれにせよ、一見すると古き良き時代の美しく優雅なイメージの下には、いつの世にも変わらない、泥くさい人間模様が渦巻いているのだ。

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