男も女も、たばこ、たばこ、たばこ!
一方、仕事では野心家の若手営業マン、ピート(ヴィンセント・カーシーザー)にライバル視されるなど、生き馬の目を抜く広告業界で気が休まる瞬間はない。自身の過去に重大な秘密を抱えるドンは、仕事と家庭との狭間で精神的に追い詰められながらも、成功者であり続けるべく、必死に踏みとどまろうとす る。
TVドラマではかつて見たこともないほど忠実に当時のカルチャーを再現し、かつアレンジされた衣装やヘアメーク、美術やセット、俳優陣のたたずまい は、すべてが完璧で目を奪われる。男性はビシッと細身のスーツを着こなし、女性は体の曲線や胸、腰のくびれを強調した優雅なファッションに身を包んでい る。あくまでも男性は男らしく、女性は女らしさを求められた時代のエレガンスは、一見すると古き良き時代へのノスタルジーをかき立てられる。
しかし、60年代という時代に忠実な描写は、しばしば過激だ。
冒頭でも述べたが、男性は会議室での打ち合わせでもどこでも、たばこ、たばこ、たばこ! 6人いて全員がたばこをふかしながら打ち合わせなんてザラ。女性にしても、外出先や、自宅で近所のママ友とおしゃべりするにも、基本、たばこは欠かさない。劇中では、子どもが生まれた男性社員が祝いの席でスピーチを要求されて、「(子どもが将来)ラッキーストライクを好きになりますように!」と自社の大口クライアントのたばこを引き合いに出したりするのだから、隔世の感がある。
また、強い酒もたばこと同様で、職場では各人の部屋にいくつものウイスキーやスコッチなどの瓶が並び、キャビネットの中にも高い酒がストックされている。昼間から飲みながらの商談、打ち合わせなどは日常の風景。ランチどきには、高級レストランでオイスター&マティーニ、大口のクライアント相手の会議ではシュリンプカクテルをつまみながら、なんていうのも、いかにも時代の最先端を行く業界人のステイタスといったバブリーな雰囲気である。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら