コロナで露呈した米国「ファックス依存」の実態 実はデジタル後進国だった?

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紙のデータがあふれかえるようになったことを受けて、少なくとも1つの衛生局がデータ処理部隊の増員を要請する事態となっている。ワシントン州は先日、州兵を25人投入し、検査結果の手入力に当たらせた。

「検査件数にこだわりすぎて、『検査結果をどう使うのか』という肝心の目的が見えなくなっている」と、アメリカ疾病対策センター(CDC)の元所長、トーマス・フリーデン氏は指摘する。「どの州も、この点に頭を悩ませている」。

テキサス州の州都オースティンとトラビス郡で臨時の衛生局長を務めるマーク・エスコット氏は、重複した検査結果も含めると毎日1000件のファクスが事務所に届いていると話した。管轄外のものもあれば、症例の調査に必要な重要情報が抜けているものも目立つ。オースティンではそうしたファクスの大半がコンピューターに送信されるようになっているが、それでも印刷してデータベースに手作業で情報を入力する必要があるという。

この衛生局では、必要な情報が出そろうまでに検査実施から平均して11日もかかっている。こんなに時間がかかるようでは、接触者追跡を行う意味がない。そのためエスコット氏は、管轄域内でコロナの症状が出ている人は陽性と考えるよう忠告してきた。検査結果を待っていたら手遅れになるからだ。

「症状が出てから14日後に検査結果が届いても(感染防止には)まったく役立たない」(エスコット氏)

紙データが氾濫した理由

CDCによると、今回のパンデミックが発生するまで、公衆衛生当局が追跡する疾患の検査結果は90%近くがデジタルで送信されていた。

しかしウイルス検査を大規模に行う必要性が出てきたため、普段は経営者向けの検査のみを実施する業者や、インフルエンザやレンサ球菌咽頭炎といった病気の検査を行う小規模なクリニックなどが多数、コロナ検査に参入することになった。当局に従来とは違った形態で検査結果が報告される割合が高まったのは、このためだ。

「基準はあるが、コロナの感染が急拡大し、検査件数が劇的に増えたことで対応が追いつかなくなった」と、CDCで検査報告作業部会の責任者を務めるジェイソン・ホール氏は語る。

州・準州疫学者評議会のジャネット・ハミルトン代表によると、アメリカ全体として見た場合、コロナ検査結果の約80%では人口動態情報が抜けており、半数には住所の記載もない。

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