コロナで露呈した米国「ファックス依存」の実態 実はデジタル後進国だった?
新型コロナウイルスの感染が深刻化しているテキサス州ヒューストン。感染者が他人にウイルスをばらまく前に追跡して隔離しようと公衆衛生当局は対応に大わらわとなっている。ところが彼らには、それ以前に何とかしなければならない問題がある。ファクスだ。
先日、ヒューストンのハリス郡公衆衛生局にあるファクス機が悲鳴を上げた。ある検査ラボから大量の検査結果が送られ、床全体に何百枚という紙が散乱したのだ。
「何百枚というファクスが届き、機械から紙が吐き出され続ける様子を想像してみてもらいたい」と、同衛生局のウメア・シャー局長は語る。ハリス郡では、これまでに4万人を超す感染者が記録されている。
シャー氏個人のファクス番号に検査結果を送ってくる医師もいる。それらは「マル秘」と記された封筒に入れられ、感染症部門に手渡される。
郵便もいまだ現役
アメリカは感染の拡大を抑え込もうと必死だが、細切れの保健システム、新旧テクノロジーの混在、疫学者のニーズを満たさないデータ基準などから、次々と問題にぶつかっている。公衆衛生当局や民間の検査機関は、1日の検査実施件数をなんとか50万人超まで拡大したが、雪崩のように押し寄せる大量の検査結果をスムーズに処理する仕組みがない。
各衛生当局が感染経路を追跡するのに使っている方法は、いかにもアメリカ的なごたまぜだ。一部の検査結果はデジタル化されスムーズに集積されるが、電話、電子メール、郵便、ファクスで送られてくる検査結果も多い。
ファクスがいまだに使われているのは、保健情報のデジタルプライバシー基準に配慮した結果だ。物理的に送られる報告書は往々にして重複し、管轄とは違う保健所に届き、感染者の電話番号や住所といった肝心の情報も抜けている。
こうしたデジタル化の遅れのせいで、感染拡大の抑制に欠かせない症例報告と接触者の追跡に支障が出ている。さらに公衆衛生分野の経験に乏しい機関が多数、症例報告と接触者追跡に加わったことで、混乱はいっそう深まった。
「現場は、とてつもなく困難な状況に直面している。データの把握が感染速度に追いつかないのだから」と、シャー氏は述べた。