かんぽ不正「100年史」に刻まれた長く深い病巣 第2次大戦前から蔓延し、告発本も出ていた

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ところが現場の管理者は優績者に甘く、現場の管理者は「軍団」の「総帥」(リーダー格)に「作戦会議は規模を縮小し目立たぬように」と耳打ちした。本部や現場の管理者処分も緩かったと、灘氏の告発本に書いてある。それで不正の根絶には至らなかった。

今年2月、日本郵政の増田寛也社長に告発本の内容を示す機会があった。就任から1カ月余りの就任まもないタイミングだった。増田社長は「根の深い問題であると思いますが、対応策を考えます」と応じた。

「再開条件はおおむね満たしている」

今年7月16日に「JP改革実行委員会」が開催された。かんぽ生命保険と日本郵便による保険の不正募集の再発防止策を検証する場で、今回で第4回となる。

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営業現場を視察してきたという委員から「かんぽの営業再開の条件は100%ではないが、おおむね満たしている」との報告があり、他の委員からこれといった異論は出なかった。

「100%ではない」というのは、本部や現場の管理者や営業職員の処分が完了していないことを指す。一方で、「走り出さないと(=保険営業を再開しないと)できない改善策もある」と、昨年7月から自粛している保険販売の積極営業を再開すべきだといった意見も委員から出た。

日本郵政の増田寛也社長は「積極営業再開のための必要条件は満たしているということだが、十分条件を満たしているかどうか」と慎重に応じた。

このように増田社長は再開時期を明言しなかったが、「今夏にも営業再開へ」というニュースが全国に流れた。

【2020年7月23日12時00分追記】初出時、営業再開のニュースに関連する一部の記述に不正確な部分があったため、表現を見直しました。

日本郵政は今度こそ保険の不正募集を根絶できるだろうか。不正募集の蔓延は、戦前の1930年代後半、高度成長期の1960年代後半、1980年代前半と繰り返され、そして2010年代後半に大量発覚した。少なくとも戦後の3回については「乗り換え話法」を軸とした不正募集である。不正の根絶には、徹底した現場職員や管理職の処分が必要条件だが、それだけでは十分条件を満たしてはいないように思える。

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山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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