「コロナが不安で生命保険に加入」という間違い 民間の生命保険で解消できる不安は少ない

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(デザイン:小林 由依)

人々の不安が増大しているときは生命保険会社にとって商機だ。新型コロナウイルスの影響で、かつてのような対面営業は展開しにくくなっているとはいえ、生命保険各社には攻勢ターンといえるだろう。

ひるがえって、消費者にとってはどうか。コロナ感染者の再拡大で不安が増大している今は、ひたすら虎の子の貯蓄を守る守勢ターンではないか。「コロナが不安だから」と揺れる感情に任せ、「がんも不安」「介護も不安」と次々に加入していけば、保険料負担が増大。生活が圧迫されるばかりか、貯蓄が形成できず、最悪の場合は貯蓄が減るおそれもある。

「それならば」と貯蓄型保険に入ると、ますます深みにはまりかねない。元本が保証されているかのような貯蓄型商品には「満期まで保有すれば」とか「外貨ベースでは」などのただし書きがつく。そもそもどれくらいの金額が経費として抜かれているのかもわからない。

誤解だらけのコロナと生命保険の関係

新型コロナへの不安や悩みのうち、生命保険で解決できるものは多くはない。『週刊東洋経済』7月20日発売号は、「生命保険の罠」を特集。コロナ禍の不安に踊らされない生保のリテラシーを紹介している。

本特集ではFP(ファイナンシャル・プランナー)で社会福祉士の清水香氏にさまざまな不安や悩み、それらに対する生保への期待と誤解を整理してもらった。

例えば、「自分や家族が新型コロナ感染症にかかるかも」という不安だ。よくある誤解は「入院で多額の医療費がかかる? 重症化すれば人工呼吸器や人工心肺装置(エクモ)を利用し莫大な自己負担が発生する?」というものだ。

実際はどうか。まず、コロナ感染症は指定感染症なので、治療費は公費負担になる。次に、コロナ感染症であってもなくても、入院すると医療保険から入院給付金を受けられる。軽症のためにホテルなどで治療を受ける場合も給付金の対象になる。医療保険に入ったからといって、コロナにかかる可能性がなくなるわけではないので、不安は消えない。

医療保険については、コロナ以前の問題として、そもそも必要かどうかが疑わしい。高額療養費制度や付加給付があるからだ。

1カ月で100万円の医療費がかかっても、窓口負担は30万円。そのうち21万円強は高額療養費制度で賄われる(70歳未満・年収370万〜770万円の場合)。さらに勤務先に付加給付がある場合も。健康保険組合によって給付額は異なるが、例えば地方職員共済組合の場合、6万円強が給付され、所得に応じ、自己負担額はわずか約2.5万円か約5万円だ。

医療保険については、先進医療特約をつけたばかりに不要な治療を受ける怖れが指摘されている。「先進医療」という名前は聞こえがいいが、治療効果が科学的に検証されていない段階の治療法だ。同特約は上限2000万円までが多く、1回300万円前後のがんの重粒子線治療なら6回まで受けられるというのが売り文句だが、「6回も重粒子線を浴びたら体が持たず、患者が死んでしまう」と長浜バイオ大学の永田宏教授は言う。

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