イスラエルに注目する世界、取り残される日本 私たちは「中東のシリコンバレー」を知らない

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イスラエルのことをほとんど知らないわれわれは、毎日知らずにARMのCPUを使っているように、イスラエル発の技術を日々使っている。インテルのCPUも(すべてではないにしても)イスラエルの開発拠点で設計されたものだ。日本では知られていないイスラエルについて丁寧に書かれた本が『世界のエリートはなぜ「イスラエル」に注目するのか』だ。この書名には「なぜ日本のエリートはイスラエルに注目しないのか」という痛烈なメッセージが込められている。

ビジネスマンのためのイスラエル入門

著者の新井均氏は、もともとNTTの研究所に勤務する技術者であった。それがアメリカのビジネススクールで学んだ経験から、ビジネスの世界へ足を踏み出し、さらにNTTを去ってからは、外資系企業にも身を置いて経験を着実に蓄積していった。そのなかで出会ったのがイスラエル企業である。

新井氏自身、ご多分に漏れず、当初はイスラエルのことをほとんど知らなかったという。イスラエル企業との付き合いを深めていくなかで、イスラエルの文化や歴史などにも深く興味を持つようになったという。そこには、イスラエルが中東のシリコンバレーと呼ばれるようになった秘密(日本人にとっては)の数々が詳しく記されている。

例えば、敵対するアラブ諸国に周囲を囲まれた「島国」であるがゆえに、彼らは海水を淡水化して飲み水を確保し、食料自給のために、砂漠でも農作物が作れる点滴灌漑(かんがい)の仕組みを開発した。必要なものは知恵を出して作り出すという歴史・文化があるのである。また、優れた大学、政府、軍、多国籍企業が有機的につながるエコシステムも作り出している。

新型コロナウイルスで世界も日本も大きな転換点にきている。テレワークが単なる掛け声ではなく現実に浸透し始めている。そうした転換点にあって、著者の新井氏は、日本が培ってきた仕組み、ものの考え方、価値観などを見直す必要があると訴える。外資系企業に身を置き、とくに、イスラエル企業に身を置いた経験があるからこそ、心の底からそう思うのだろう。

本書の特徴は、一言でいって、技術、歴史、文化、経営、地政など多様な視点でイスラエルについて解説している点だ。普通、学者が書けばアカデミックよりに、実務家が書けば事例中心になる。

ところが本書はそうではない。1冊でイスラエルを丸ごと理解できる構成になっている。ビジネスマンのためのイスラエル入門書なのだ。しかし、単なる入門書ではない。羅針盤となる実用書でもある。イノベーションの定義が新結合とすれば、本書はまさにイノベーションだと思う。

宮永 博史 東京理科大学大学院 技術経営専攻 教授

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みやなが ひろし / Hiroshi Miyanaga

東京大学工学部卒業。MIT大学院修士課程修了。NTT、AT&T、SRI、デロイトトーマツコンサルティング取締役を経て、現職。主な著書に、『ダントツ企業』(NHK出版新書)、『技術を武器にする経営』(共著、日本経済新聞出版社)、『世界一わかりやすいマーケティングの教科書』(中経出版)などがある。

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