1日20万件のPCR検査能力が日本に必要な理由 政府コロナ分科会の小林慶一郎教授の提言

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小林慶一郎(こばやし・けいいちろう)/東京財団政策研究所 研究主幹。東京大学大学院工学修士、シカゴ大学経済学博士。通商産業省(現経済産業省)など経て2018年4月から現職。慶應義塾大学経済学部客員教授などを兼職。近著に『コロナ危機の経済学 提言と分析』(共著)、『財政破綻後 危機のシナリオ分析』(編集)、『時間の経済学』など(写真:本人提供)

――提言では、9月末までに1日10万件、11月末までに1日20万件のPCR検査能力確保を求めています。厚生労働省によると、現状の最大能力は1日3.1万件程度で、大幅な拡充が必要となります。目標数値の根拠は何ですか。

季節性インフルエンザの患者は、ピーク時に1日10万~30万人発生する。今冬にインフルとコロナを峻別できないと、医療現場ではコロナが怖くてインフルの検査もできなくなる。発熱患者の検査ができないまま、コロナが感染拡大したら収拾がつかなくなる。

加えて、院内感染防止の観点も重要だ。病院への新規入院患者は平均1日4.5万人に上る。理想的にはすべての患者さんは入院時に検査してもらうことが望ましい。また、日本ではざっと医師30万人、看護師150万人、介護職100万人の方々が働いている。こうした人たちの感染リスクを考慮し、仮に1週間に1回の検査が必要と考えれば、これだけで1日40万件の能力が必要になる。

このように、1日20万件目標というと大きく聞こえるが、われわれの感覚からすると、控えめの目標値だ。

どれだけをいつまでにやるといった数値目標があれば、消費者や企業は安心感を強め、経済は活性化する。一方で、数値目標がなければ、政府は必要な人材育成や物資調達の計画も立てられないだろう。

「国民全員にPCR検査」は無駄が多い

――PCR検査の感度は一般に7割程度とされ、約3割の人は感染していても陰性と検出されるため、市中での2次感染を起こす危険があります。5月には「国民全員にPCR検査を」という提言にも賛同していましたが、こちらは撤回したのでしょうか。

5月初めに賛同を撤回した。感度の問題に加えて、膨大なコストもかかるため、あまりに大規模な検査・隔離療養は最適な政策ではないと考えている。

――経済活動の再開とともに海外出張時に、取引先から新型コロナの「陰性証明書」が求められることが予想されます。そうしたビジネス用途でのPCR検査需要も増えそうです。ただ検査感度の問題に加え、日々感染リスクにさらされる中で陰性証明書の「有効期間」が短いことから、野放図に検査需要が拡大しかねないですね。

そうした警戒感に違和感はない。本来、国がやるべきことはコロナと疑われる患者にしっかり対応し、院内感染防止や海外からの入国者の検疫などにも取り組むことだ。ビジネス用途も重要だが、それに振り回されるのでは、優先順位が違う。

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