東京女子医大病院「400人退職」の裏にある混沌 医療スタッフのボーナスをカットした本当の訳

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日本医療労働組合連合会の調査によると、夏のボーナスについて回答した全国の医療機関338のうち、約3割が去年より支給額が下がった。

ただし、「ボーナスゼロ」は、女子医大のみ。

新型コロナによって通院を控える患者が多く、大半の医療機関が前年より収益が激減している現実もある。

民間の船橋二和病院(千葉県)は、新型コロナの対応で発熱外来や専用病床を用意するなど、職員たちは対応に追われてきた。しかし、夏のボーナスは、前年の1.5カ月分から、0.9カ月に減額されたという。

一方、約100億円の費用をかけて、病院の建て替え計画は予定どおり進む。

このまま黙っていると、いずれボーナスがなくなるかもしれない。強い危機感から、たった9人の小さな労働組合が、今月10日にストライキを決行した。

「自治体から要請されて、頑張って新型コロナの対応をした。病院の減収分を自治体は補填してくれないので(病院が)自前でやるしかない。だからボーナス削減、というのが病院経営者の言い分。

でも、『なぜ私たちのボーナスを削るの?』という疑問があって、今回のストライキ行動では、千葉県や船橋市にも要請を行いました」(書記長の内科医・柳澤裕子氏)

人件費を削られる医療スタッフにも生活がある

「いま医療機関は、どこも人件費を削らないと経営できない状況になっています。でも、職員たちにも生活があるわけです。高校生や大学生の子どもには学費、親の介護。住宅ローンがあれば、ボーナス期にたくさん支払いがあるわけで、本当に切実な問題なのです」(組合員の医師・関口麻理子氏)

茨城県つくば市の地域医療を支える「坂根Mクリニック」。

坂根みち子院長によると、外来患者の受診控えなどの影響で、去年同期と比較して利益は3割減。それでも、ボーナスは内部留保を取り崩して、例年どおり支給した。

画像をクリックすると政治、経済、企業、教育、また個人はどう乗り切っていけばいいか、それぞれの「コロナ後」を追った記事の一覧にジャンプします

「新型コロナで、職員は大変な思いをしてきたから、ボーナスを出すのは当然のことだと思っています。国は診療所に対して1人当たり5万円の慰労金を出すそうですが、私たちに必要なのは、1回きりの慰労金ではなく、持続可能なシステムにするための抜本的な診療報酬の見直しです」(坂根院長)

厚生労働省は医療費の削減に躍起だが、相次ぐ診療報酬の切り下げで、医療機関はどこもギリギリの経営を続けてきた。

新型コロナの「第2波」で、とどめを刺されて経営破綻する医療機関が続出する可能性も出てきた。欧米で起きた医療崩壊は、すぐそこに迫っている。

ところで、女子医大関係者によると、大学当局は銀行から借り入れして夏のボーナスを支給する方向で準備を進めているという。

医療スタッフたちの苦労が、少しでも報われることを願うばかりだ。

岩澤 倫彦 ジャーナリスト

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いわさわ みちひこ / Michihiko Iwasawa

1966年、北海道・札幌生まれ。ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家。報道番組ディレクターとして救急医療、脳死臓器移植などのテーマに携わり、「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで、新聞協会賞、米・ピーボディ賞。2016年、関西テレビ「ザ・ドキュメント 岐路に立つ胃がん検診」を監督。2020年4月、『やってはいけない、がん治療』(世界文化社)を刊行。近著に『がん「エセ医療」の罠』(文春新書)。

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