東京女子医大病院「400人退職」の裏にある混沌 医療スタッフのボーナスをカットした本当の訳

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「今期の上半期賞与は支給しない」

6月11日、団体交渉に臨んだ女子医大の労働組合に対して、大学当局はボーナスゼロの回答を行った。対象は、医師、看護師、検査技師から事務職まで全職員だ。

労働組合には、生活に対する不安と、大学当局に対する怒りや不信の声が寄せられた。

「奨学金の返金もできません。食費の確保もできません。生きていけません。毎日、不安で不安で、正直眠れないです」(20代・女性)

「説明もなしに、いきなりボーナス全額カットなんて詐欺もいいところ。職員はボランティアですか?」(20代・看護師)

「私たちが必死でやってきたことに、感謝すら感じていないのだと思い、本当に涙が出ます」(30代・看護師)

「どこまで頑張る職員を侮辱し、痛めつければ気が済むのですか? 職員が病気になりますよ」(30代・医療技術者)

実は、ボーナスゼロには伏線があった。

新型コロナの第1波を受けて、外来患者が大きく減少したため、女子医大は職員の一部を「一時帰休」させた。

いわゆる自宅待機だが、その期間の給与は4割減。当然、職員からは反発の声が上がったが、方針は変わらなかった。

女子医大には、新宿の本院のほかに2つの病院があり、看護師だけで2206人が働く(女子医大HPより)。今回のボーナスゼロ回答を受けて、全看護師の5分の1にあたる約400人が退職の意向を示したという。

6月25日、再交渉に臨んだ労働組合に対し、大学当局の代理人である弁護士からは、神経を逆なでする発言が繰り返された。

「足りなければ補充するしかない」

組合:「女子医大よりも減収額が大きい大学でもボーナスは出ている」

大学:「減収と赤字は違う。うちは30億円の赤字だ」

組合:「中小の病院も赤字に苦しんでいる。それでも職員のことを考えて、借りてでもボーナスを支給しているところもある」

大学:「女子医大も借りて支給せよということですか。そんな不健全な経営は間違っているし、やるつもりもない」

組合:「看護師の希望退職者が400人を超えることについてどう考える?」

大学:「深刻だと思うが、足りなければ補充するしかない。現在はベッドの稼働率が落ちているので、仮に400人が辞めてもなんとか回るのでは。これは完全に経営の問題であり、組合に心配してもらうことではない」

今期、30億円の赤字になる、という弁護士の主張について、女子医大関係者に聞くと、意外なカラクリがあるという。

「30億円の赤字は、ボーナスを前年並みに支給した場合の推計値です。結局、ボーナスはゼロだったわけですから、30億円の赤字は理屈に合いませんね」

女子医大関係者は、看護師の離職について、大学側の認識を明かした。

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