「竹取物語」冴えないタイトルに隠れた深い意味

なぜ絵本のように「かぐや姫」じゃないのか

そもそも『竹取物語』の主人公は誰なのか(写真:けんさん/PIXTA)

海外の作品が街角の書店に並ぶというのは、ごくありふれた寸景だ。漫画からライトノベル、ハードルの高そうな純文学や哲学書まで、多岐にわたるジャンルの本たちが、さまざまな国から旅立って、毎日世界中の読者に無数の物語を届けている。日本で生まれた作品もまた、見知らぬ国へ旅立っている。

しかし、文学作品のタイトルの翻訳は、悩ましい場合が多い。手に取ってもらうための、練りに練ったタイトルを、単純に置き換えるわけにもいかない。ストーリーの一部となり、解釈のカギを秘めていることもあるので、気をつけないとせっかくのカラクリが台無しになりかねない。

『細雪』の残念な英語版タイトル

1949年に刊行された、谷崎潤一郎の長編小説『細雪』は、連載当時から人気が高く、今や何カ国語にも翻訳されている。タイトルとなっている「細雪」は、まばらに降る細かい雪のことを意味している。あまり耳にしない表現ながらも、詩情をそそる語句で、小説の挽歌的な性格にぴったりだが、英訳はなんと『The Makioka Sisters』。

この連載の記事一覧はこちら

確かに、蒔岡家の4人姉妹をめぐる物語なので、わかりやすさを狙って選考されただろうけれど、オリジナルのタイトルが醸し出している雰囲気はどこにもない。ちなみに、同じ作者の『私』という短編は、『The Thief』 と訳されているので、考えようによってはネタバレとも言える。

タイトルが作品のウケやイメージにまで影響してしまうのは、翻訳にだけ関係している問題とは限らない。言語が変わらずとも、口承文学として伝播された昔の物語も、同じ運命をたどっているケースは多い。誰が、いつ、なぜそのように付けたのか…‥編集者が単なる思いつきで選んだかもしれないタイトルは、読者の解釈を惑わすときもあれば、新たな発見への糸口を示してくれることもある。

例えば、『和泉式部日記』。今は日記と呼んでいるが、かつては『和泉式部物語』というタイトルの方が一般的だったそうだ。日記か物語か、作者は和泉ちゃん本人なのか、それともゴシップに飛びついた女房なのか、書かれている内容をどこまで信じていいのか……いろいろ考えさせられる。しかし、日本の古典文学の中では、もっとも謎めいたタイトルといえば、間違いなく『竹取物語』なのではないかと思う。

次ページまずはあの有名な冒頭文!
ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 新型コロナ、長期戦の混沌
  • トクを積む習慣
  • Amazon週間ビジネス・経済書ランキング
  • ポストコロナのメガ地経学ーパワー・バランス/世界秩序/文明
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
危機はこれからが本番!<br>コロナ倒産 最終局面

新型コロナウイルスの感染拡大で企業業績に大打撃。資本不足の企業が続出し、大手でさえ資本増強に奔走しています。政府の支援策で倒産は小康状態でも、もはや倒産ラッシュは時間の問題に。苦境の業界をリポートし、危ない企業を見破るノウハウを伝授。

  • 新刊
  • ランキング
東洋経済education×ICT