「竹取物語」冴えないタイトルに隠れた深い意味

なぜ絵本のように「かぐや姫」じゃないのか

古典作品は先行文学を引用したり、内容をパクったりしていることが多く、そのような部分を探すのは楽しみの1つである。そこで、いろいろ調べてみたら、『万葉集』の第16巻に「竹取の翁の歌」というものを発見するではないか。

原文はだいぶ長いが、掻い摘んでまとめると、80歳くらいの爺さんが何人かの艶かしい仙女と出会う場面が語られている。彼は不審尋問を受けても、悪びれもせず、せっかくだから歌を詠もうじゃないかと逆に女性陣を誘い出す始末。その歌もまた、今はヨボヨボの老人だが、昔は何人もの女を泣かせてお盛んだったんだぜ、との内容になっており、ユーモアに富んだ応酬が綴られている。

この時代の歌のやり取りはそもそもナンパ以外の何物でもないという背景も踏まえると、男はいくつになっても、綺麗なお姐さんに惹かれてしまうことを物語る人間味あふれるワンシーンだ。

『万葉集』を読んでいた平安人はきっと…

そこで、『竹取物語』の爺さんは、『万葉集』の爺さんを潜在化した人物という読みを採用すると、相手を笑わせてもてなしたことは天人が言及した「いささかなる功徳」ということになる。そうだとしたら、平安はなんて素敵でシュールな世界だったなんだ、と思わず感動してしまう。しかも、まだ存在していなかったはずの単語なので、作者が狙っていたわけではないが、「功徳」を「口説く」にかけたダジャレが浮かんできたのは私だけなのだろうか……。

『万葉集』を丸暗記していた平安時代の読者は、『竹取物語』というタイトルを聞いた瞬間、「ああ、あのダンディの爺さんか」とすぐぴんときていたはずだ。そして、隠し味となっている若き爺さんの武勇伝をじっくりと噛み締めながら、頭の中で文学的妄想をパッと広げて、かぐや姫をめぐる男たちの求愛行動のストーリーを読んでいたわけである。

それはまさにインタラクティブな楽しみ方、『かぐや姫物語』と名付けたら決して実現できない高度な技術。何百年悩み続けた凄腕の編集者たちよ、あなた方の能力を疑ってすみませんって感じ。

次ページ爺さんはかぐや姫との別れでなんと…
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