車の中には王様だと思われる人がいて、屋敷に向かって「造麻呂よ、お前出てこい」と彼を呼び出した。意気込んで、戦う気満々だった爺さんは酔っ払ったかのようにうつ伏せになり、ピクリともしない。「お前、バカだな。少しばかりいいことをしたので、お前の助けにほんのわずかの期間にかぐや姫をこちらに下ろしてやったのに。そのおかげでお金もたっぷり儲かって、別人になったじゃねぇか。かぐや姫は月の都で罪を犯したから、こんな卑しい身分のお前のところに滞在させた。だけど償ったから、もう終わりだ、迎えにきたんだ。だからよ、お前が泣きわめくのはお門違いも甚だしい。さっさと姫を出せ」と天人がいうのであった。
強引で傲慢、言葉遣いも荒い天人
地球での滞在期間が終わったので、姫の故郷である月の都からお迎えがきた。娘のように彼女を育てた爺さんが抵抗しようとするものの、天人は想像を絶する力を発揮し、戦おうにも太刀打ちできないような状態だ。
天界に住む者は、道徳的な前世を歩んだ人はたまた天使、邪念のない、ピュアな生命体のイメージが強いが、『竹取物語』に登場する天人たちはまるで違う。強引で傲慢、言葉遣いも荒くて、ぐったりした老人を怒鳴りつけているこのくだりはなんとも滑稽だ。
しかし、乱暴で偉そうな王様の話に耳を傾けると、そこには実に面白いヒントが盛りだくさん。姫が罪を犯して、それを償うために地球に降ろされたこと、爺さんが急に砂金がびっしりと詰まった竹を発見することになった理由……その全てが天人の仕業だったのだ。
王様は、最初から求婚者の好奇心をそそる金持ちの美人という設定を可能にしつつも、結婚できないように仕立て、親代わりの爺さんと婆さんや大勢のファンたちに囲まれながらも、自らの家庭が作れない、孤独な人生をかぐや姫に歩ませてきた。人間の欠点を目の当たりにしながら成長していく姫のその生き方こそが、罰そのものだったのかもしれない。
かぐや姫の過ちは、実際にどのようなものだったのかについて触られていないが、恋愛がらみの罪だと思われ、その前篇についていくつかの説がある。しかし、天人の話によると、前科があるのは姫だけではなさそうだ。上記の引用文では「いささかなる功徳を翁つくりけるによりて」とあるが、それは具体的にどのようなことを指しているのかが気になる。
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