「東京は無機質で、人情味が薄い」と思っていたら…夢やぶれて"失意の上京"をした23歳彼が「選んだ街」と、そこで過ごしたモラトリアムな日々

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三軒茶屋の風景
多くの若者を惹きつける街・三軒茶屋。その奥深い魅力とは?(筆者撮影)
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進学、就職、結婚…人は様々な理由で東京に移り住む。しかしずっと同じ街に暮らすとは限らず、一度引っ越すと、その街に何年も足を運ばないケースも――本連載ではそんな「東京で最初に住んだ街」を、様々な書き手が久しぶりに歩き、想い出の中の街と現在の街を比べていきます。
初回は批評家の真鍋厚さんが、三軒茶屋で過ごした日々を振り返ります。

20年ぶりに三軒茶屋の地に降り立つと、何とも言えない気恥ずかしさを感じた。

三軒茶屋交差点から見えるキャロットタワーや、下北沢へと続く茶沢通り、居酒屋やバーがひしめくすずらん通りなど、目に入るものすべてが上京したての20代の思い出とひもづいていたからで、ヘミングウェイの小説のタイトルではないが、とにかく「何を見ても何かを思い出す」的な体験にしばし面食らってしまった。

三茶、駅徒歩10分、1DK、家賃10万5000円

2004年の秋。大学卒業後、就職と同時に東京で暮らすことになった私と彼女は、同棲することを前提に物件を探していた。といっても、1泊2日の東京旅行のうちに決めなければならなかった。そのため、実質の猶予は1日しかなく、しかもなぜか三軒茶屋一択だった。

理由は彼女の父親が学生時代にアパートを借りて住んでいたことがあり、多少の土地勘があったということだけだった。そもそも当時、私には三軒茶屋はおろか、東京の生活に関する知識はゼロに近く、次から次へと不動産屋をはしごする彼女の後を付いて回るような感じになった。

最終的に借りた物件は、駅徒歩10分ほどのところにある1DK、家賃10万5000円の鉄骨造のアパートだった。4階の角部屋で、日当たりが良好なのが決め手になった。隣に介護施設があり、屋上に干された洗濯物が見えたのも生活の匂いがして好感が持てた。

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