その「差異」は努力の結果か、生まれつきか デブ対チビの終わりなき闘い

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持って生まれたものか、努力の成果か

社会科学では、当人の責任ではない、持って生まれた要素を「属性」、当人の努力の成果を「業績」と呼んで区別します。現代社会は業績に基づく差別は容認する(たとえばTOEICの点数が高いほうが高い賃金をもらうこと)のに対して、属性に基づく差別はあってはならないと考えます(たとえば同じ仕事をしているのに、女だから、外国籍だから、といった理由で昇進や昇給で差別を受けること)。

容姿・外見は「属性」であり、学歴は「業績」であるとしばしば考えられているのですが、それははっきりと区別できるようなものでしょうか? 容姿にも努力の結果という意味で「業績」の要素がかなり入っており、逆に学歴も決して当人の努力だけで決まるものではなく、どんな家庭や地域に生まれ落ちたかで、獲得できる学歴が違ってしまうのは、残念ながら事実です。岩手県と東京都の中学卒業生の3年後の大学進学率には、約2倍の差があります。

そういう意味でいうと、男性のチビは、結婚市場で確かに不利な扱いを受けるのですが、一定の年齢になると「属性」にしかならず、当人の責任にはなりません。これに対してデブのほうは、いつまで経っても「業績」と考えられ、個人が帰責の対象とされてしまうのです。

それらの結果として、さまざまなダイエット商品が生み出され、どうグラフを見て考えても大した効果がないであろう商品が「トクホ」になって注目されたり、脂肪吸引や部分やせ、果ては医学的に大した根拠のないようなエステなるものに、人は高額のおカネを出すことになるのです。

就活にもそれは微妙に影響しますよね。入試合格時は業績だったはずの学歴は、就活では属性と化してしまいます。そこで業績の領域を磨くことを目指してエントリーシートを工夫し、また外見が属性ではなく、業績になるために、スーツだのメイクだのにエネルギーを費やし……。

私も背の順に並ばされた暗い過去から、チビはけっこうしんどいコンプレックスなのですが、まぁ、対処法がない、というのはある意味幸せなのかもしれないと、プチ・ダイエットをしながら考えていました。

瀬地山 角 東京大学教授

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せちやま かく

1963年生まれ、奈良県出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。北海道大学文学部助手などを経て、2008年より現職。専門はジェンダー論、主な著書に『お笑いジェンダー論』『東アジアの家父長制』(いずれも勁草書房)など。

「イクメン」という言葉などない頃から、職場の保育所に子ども2人を送り迎えし、夕食の支度も担当。専門は男女の社会的性差や差別を扱うジェンダー論という分野で、研究と実践の両立を標榜している。アメリカでは父娘家庭も経験した。

大学で開く講義は履修者が400人を超える人気講義。大学だけでなく、北海道から沖縄まで「子道具」を連れて講演をする「口から出稼ぎ」も仕事の一部。爆笑の起きる講演で人気がある。 
 

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